少年ロウェルと広い世界(4)作り話し
リューグナーとロウェルは商人たちが行商を行う宿場前の通路を歩いていた。リューグナーはここに来るまでにロウェルが金を持っていない一文無しということを知った。持っている物も乾パンがいくつかと水を入れる革袋、そしてそれらを収納しているボロ布のバッグだけだった。
「お前に果物でも買ってあげたいんだが、俺も金を持ってなくてな…昨日まではあったんだが、盗られてな」
「誰に盗られたの?」
「それは…」
その時、リューグナーはあることを思いついた。
「それは…この町に来た偽商人だ」
リューグナーはロウェルを商店の並ぶ通路の端に寄せて耳元にひそひそで話し出す。
「この町には物資や食料なんかを多くの商人達が定期的に持ってきてくれる、みんな良い人なんだが、時々、その中に悪い考えを持つ奴が一緒に来るんだ、俺はそいつに騙されちまってな」
リューグナーはロウェルの顔を窺ったが、特に怪しんでる様子はなかった。
「それで、どうなったの?」
「あぁ、太陽が色を変えて沈み出していた頃だった、俺は商人達がどんな物を売ってるのか確認しに、この商店路を見て回っていたんだ。そしたらその男が声をかけてきた」
あそこで売っていたと、リューグナーは日除けの布屋根を張る為の木柱が二本建ってる所を指差した。ロウェルは続きを促した。
「俺は将来東に向かって旅をして商いをしようと思っててな、参考までによく商人たちがなにを売ってるか、値段はどのくらいなのか、そういったことを聞いたり見たりしてるんだが…その男は俺が商いをしたい事を言うと色々教えてくれてな。良い奴と思ったよ、そいつは俺がいつか商いのために掘って磨いた宝石を見てくれると言ってな、急いで家まで戻って持って行った、すごい宝石だと言っていたよ」
「それのどこが盗られる話になるの?」
「聞けよ、まだ途中だろ?…そいつは宝石を買い取りたいって言ってきた、嬉しかったが、だがその宝石はあくまでも商いを始めた時に売りたかったからな、断ったんだよ。分かるか、確かに売っても良かったが、男には夢ってもんがある。宝石を売って手に入った金で生活は楽になるし、商人を名乗れるかもしれない、だが、ここで売ったら俺が売れる商品がなくなると思ったんだ。それに、努力して得た金じゃないとダメだって思ってな。家に帰って寝たんだ…だがな」
リューグナーは遠くを見つめる。
「どうしたの?続きは?」
ロウェルは話の続きが気になるらしく、早く早くとせがむ。
「寝てる間に気配を感じたんだ。扉の開く音がしてな…目を開け起き上がったが夜の闇の中では分からなかった。だが分かる事もある、感じるんだ、部屋に誰かいるって事がな。俺は叫んだ、”誰だ!!”…それがいけなかったんだ。そいつは声を頼りにものすごい勢いでタックルしてきた」
リューグナーは盗人仲間に殴られてできた傷を触れる。
「そいつに反抗する間も与えられず殴られてな、意識を失った。…気づいたら朝だった。そして……家の中は荒らされ、金も宝石も奪われてたってわけだ」
リューグナーは話しながらロウェルの様子を見た。自分の作り話のセンスのなさに呆れながらも表情には出さず、ロウェルがどんな反応をしているのかを確認する。
もし、この話に食いついてきたらある計画を実行しようと企んでいた。
ロウェルはしばらく考えて、ある疑問をぶつけた。
「…盗まれたのは分かったけど、なんで商人が盗んだって分かるの?」
ロウェルはニヤッと笑い商人たちが固まって商いをしているところを指差す。
「昨日の男があそこで売ってるからだよ…俺の宝石を」