作られた少女
彼女の中身を見てみたいと思った。
内臓とかそういうのではなく、心理的なものをだ。
何を考え、何を思い、何を信じ、何を嫌い、何を求めて生きているのかが知りたい。
まるで小説に出てくるような完璧な少女。
どこまでも美しく聡明で凛々しくも、それでいてどこか儚げな少女が僕の世界に現れた。
小説の中に入り込んでしまったような錯覚に陥ったのを、今でもしっかりと覚えている。
物語の中で生きるような彼女に、僕は全てを奪われた。
それからいうもの、僕の中は彼女の事で埋め尽くされ作る物語の女性は全て彼女となっていったのだ。
「貴方は、素敵な文を書くのね」
初めて自分の書いたものを彼女に見られた時、彼女は薄く笑いながらそう言った。
流れる黒髪を払いながら、書きかけの原稿に視線を落とす。
そんな一つ一つの動作すらも優雅で美しかった。
彼女の周りだけ切り取られたかのような、別世界が広がっているのだ。
手を伸ばして触れたいと思っても、見えない何かに阻まれてしまう様な気がした。
「……でも、この女の子はきっと何も手に入れてなかったのね」
形の整った眉を僅かに下げた彼女。
その物語の主人公は彼女自身をイメージしたもので、僕にとっては彼女のそのものだった。
僕から見る彼女こそが、その主人公なのだ。
だが、彼女はそれを自分とは知らずに何も手に入れてないと言った。
それは彼女自身がそうなのか。
黒曜石のような瞳が伏せられる。
「完璧さこそが不完全さなのね。求められ、自分を作り上げた完璧な彼女はきっと、作られただけのものであり彼女じゃないんだわ」
どこか遠い世界を見つめる瞳に息を呑んだ。
美しさの中には悲しみが溢れていて、それでいてその瞳には冷たい何かが光っていていた。
静かな部屋に落ちた彼女の言葉。
透き通った声は真っ直ぐに僕の耳に入ってきて、また僕を掴んで離さない。
僕の方を振り向いて目を細めながら笑う彼女。
揺れる陽炎のように掴めない存在の彼女は、今日も作り物のように美しい。