欲望
硬い椅子の背もたれに体を預け、ぼんやりとしている俺の横を通り過ぎようとする影。
条件反射のように、俺はその影の進みを妨害するように足を出した。
-ガタン!!-
激しい音をたてて、影が転ぶ。
床に手を付き、顔を俺に向けた影。視線を受けて、俺はニヤリと笑ってやる。
影が、何事もなかったかのようにスッと立ち上がり再び進み始めた。
心配そうな顔をして寄ってくる取り巻きたちに大丈夫だと片手を上げ微笑む。
その姿を見てチリチリとした痛みが胸と足に走る。
その痛みが鬱陶しくて、荒れた気持ちを机にぶつけるように蹴りつける。
非難めいた取り巻き達の視線が一瞬にして俺から逸らされるのを感じる。
どいつもこいつも鬱陶しい。
最初は気に食わないだけだった。
澄ました綺麗な顔が気に食わない。
崩れない表情が気に食わない。
純粋な悪意でやっていたはずなのに。
憎しみでいいから俺を見て欲しい。
この気持ちが一番鬱陶しい。
俺の中の悪意はいつの間にか欲望で汚れていた。