備忘録【プロローグ】
「どんなことでも叶えてやる。できるかどうかは問題じゃない。それが私だ」
ぼんやりと、たゆたうトンガリシルエット。
夢ながらに思うのは、ガキさながらの魔法使い。
その魔法使いに見られている。なのに、声がでない。
「? 何だいそれは?」
ぼんやりと、たゆたうマシュマロシルエット。
抱えこんだソレは、さながらこの子の宝物。
魔法使いが取りあげる。すると、声の代わりに音がでた。
「…………」
ふんわりと、広がる銀世界。
冷たい、そう感じるだけの体温。
温かい、そう感じるだけの頬。
泣いているんだと、その時初めて気づいた。
「ははっ、何だそりゃ。まるで歌になってないじゃないか」
記憶の中のボクが歌う。どんな声だったかなんてわからない。けど、下手くそだったのかなと思う。でも、これで良かったとも思う。
「そうか、そうだったな。お前はそうだった。けどな、そんなんじゃいけんぞ」
心がざわっとする。しょんぼりしたのだろう。
魔法使いが頭をなでる。
「安心しろ。叶えてやる。下手なお前でも輝ける、そんな世界にしてやる。なぁに、余は稀代まれにみる天才。そのくらい、造作もないこと」
よく分からない……けど、笑ってみる。相手にも笑って欲しくて……けど、また泣かせてしまった。
だからギュッと抱きしめた。
「お前はきっとびっくりするだろうよ。歌が栄える世界――ソコはお前にとりとびきりな世界。けどね雄一、お前は忘れてはいけない……架せられたモノ、その重みを」
ボクはきょとんとする。
「あぁ、分からなくていい。分からなくていいんだただ、うなずいてさえくれれば」
そうしてまた、抱きしめられる。今度のはあったたかった。
「――日本国憲法一条、刑法七三条に基づきお前を処罰する。今後は天皇のお膝元に寄り、国家のためにその身を粉にせよ」
ボクは『天皇』も『粉』も分からない。けど、けどなんだか恐くて泣いた。だだをこねた。パパは? ママは? パパは? ……ママ。
「死んだよ」
――じんわり、心がつかまれえぐられる。分からない。そう、分からないままでいたかった。
そうして暗転。
次の記憶に変わり、ボクは泣いている。
見かねた魔法使いが問いかける。何か欲しいものはないかと。
だから答えた。家族がほしいと。
魔法使いが言った。それは無理だと。
だから言った。言ってしまった。
嫌いだったのに、大嫌いだったのに…………結局口をついてでた言葉は、情けないくらいの寂しさだった。
――家族になって。