ここは何処?-8-
数秒か。唇が離されれば、力が抜けたように和歌はその場に座り込んでしまう。見下ろしてきたその深い色の双眸に止まっていた思考が動き出すと同時に、和歌の頬が火照ったように熱くなった。
「あ…あんた…ッ。一体、何をして…ッ!」
最大の怒りを睨み上げることでぶつけるも、和歌のファーストキスを奪った相手は何処吹く風で穏やかに笑っている。
「初めてにしてはなかなかに甘美な接吻だった」
腕を組み、そんな感想までご丁寧に述べてくれる。
「は…初めてですって!?何で、アンタにそんな事がわかんのよ!」
何だか論点がずれている反論だった気がするが、和歌の喚き声など聞こえていないかのように飄々とした様子の青年はひらりと手を振って背中を向けた。
「また会おう。―――『天羅の乙女』」
去っていく時まで優雅な美青年の意味ありげな呼びかけに疑問を持つ余裕など、今の和歌にはなかった。俯き、地面に付いた指が砂利を掻く。
「…不覚だったわ。まさか…まさか、こんな所でファーストキスを奪われるなんて…」
しかも、何かもの凄く軽そうな男に。泣く子も黙ると怖れられた全国高校空手大会準優勝の私が、いとも簡単に体の自由を奪われて。しかも、相手は片腕ときた。
こんな屈辱があるだろうか。あっていいのだろうか。いや、いいはずがない。