ここは何処?-7-
「あんたには恥じらいってものがないわけ!?普通、最初は初めましての挨拶から関係が始まるのが筋ってもんだわ!そんな事、幼稚園のガキでも知ってるわよ!あんたは、幼稚園児…いいえ、猿以下よ!」
開けば閉じる事を知らない口から矢継ぎ早に飛び出す罵詈雑言の数々に、奇妙な格好をした少女を腕に抱いている青年が少々面食らったような顔で見下ろしている事も、澄んだ空気によく通る声に道行く人々が何事かと立ち止り、小さな野次馬ができている事も、視界が青年の胸一杯の和歌が知るはずもなく。
「いいえ…動物の世界にも礼儀はあるのかもしれないわ。だとしたら、ナルシストのあんたと一緒にするのはあまりにも失礼かしら」
微かに驚いた様子だった青年の口元に、淡い微笑が広がっていく。面白そうに一人で喚き続ける和歌を見降ろし、しかし喧騒を縫って僅かに届いた音に鋭さを増した蒼の双眸が背後を一瞥した。
「ええ、そうよ!失礼よ、失礼極まりないわ!こんな失礼な事ってないわ!よって、すぐに謝りなさい!土下座して、許しを…ッ!?」
何だか自分勝手な理論を展開し出した和歌の罵倒は、強くも優しい指に顎を持ち上げられた事によって遮られる。目の前の蒼色の双眸が焦点を失えば、唇に温もりが触れた。
「・・・・・・・!?」
あまりの出来事に、和歌の思考は完全に停止する。背中に回されていた手は解かれ、それによって自由を取り戻した両手で相手を突き飛ばす事も出来たのに、和歌はただ、まるで労わるような優しい男の口付けを受け入れていた。