予言の乙女-11-
「こんなにも私を真っ直ぐに見た娘など今までにいなかった。そうだろう?ラフォット」
イケメン王子の色の白さは、僅かに差した朱ですら克明に浮かび上がらせる。興奮気味ならば況やで、感激に浸る彼の頬は高揚し、己を見つめる銀の双眸に篭められた熱に、和歌は思わず一歩後退した。
暴露すると、こうやって改まって男性に見つけられた経験などない和歌だ。熱い視線に、ただ戸惑うしかない。
「私の行動が不快を招いてしまったのなら謝る。すまなかった、予言の乙女。心より御詫びしよう」
一度振り払った手を再び取ることはなかった。興奮から冷めた様子で、胸に片手を当てて低頭するその姿にはやはり優雅さが漂う。
その誠意の篭もった謝罪に、和歌はばつが悪そうに首の裏を掻いた。外した視線は意味もなく綺麗に磨かれた床を落ち着きなく滑り、けれど結局、吐息と共に目の前の彼を視界に映した。
「もう、いいわ。何となく理解したから」
育ってきた環境の相違。
それが、和歌の怒りの原因だった。ならば、それを理解してしまえば激情は収まる。
「おぉ、愚かな私を許してくれるか。なんと心の広い娘だろう。貴女が予言の乙女で本当によかった。これで我が国は救われる」
「あの…」
「あぁ、そうだったな。まずは名乗ろう。私は、ウィリウス=ライオール=フィルチチェだ。本当はもっと長い名前なのだが、まぁ、面倒なので省こう」
いや、それでも充分長いと思います。
っていうか、王様が自分の名前を省いてしまってもいいのでしょうか。名前って、すごく大切なんじゃないですか。