予言の乙女-8-
イケメン王子君の顔面に人差し指を突きつけて言い終わると、なんともいえない沈黙が待っている。怒りや悲しみといった負の感情の蔓延とはまた少し違った、強いて表現するのなら、呆気に取られているといった感じだろうか。
言いたい事は全て伝えた。それでも相手方の反応がないのなら、結局和歌も沈黙するしかない。
どれくらいの時間が無音で過ぎていったのだろうか。これも明らかに幻聴でしかないのだが、時計の針が刻まれてる音が耳に響いてくる。それ程に、この沈黙は長く、そして少し奇妙に感じた。
「あの…」
「聞いたか、ラフォット!」
何とも居心地の悪い沈黙に耐えかねて口を開きかけた和歌を、王子の興奮した声が遮った。背後を振り返った彼の銀髪が流れ、天窓から差し込んでくる陽光を弾いて煌く様が美しい。
漫画風に効果音をつけるのなら、キラキラといった感じだ。
「この私に、離してと命令してきた。何とも新鮮な気持ちだ」
ラフォットという名らしい髭長お爺さんは、どんな顔をしているのだろう。何だか背後に薔薇を幻視しそうな勢いで興奮している王子様で、和歌からはその表情を窺い知る事は出来なかった。返す声もなかった為、判断材料がない。
推測するに、何かしらのノンバーバルなサインは貰ったのだろう。イケメン王子は興奮冷めやらずといった様子で、何やらしきりに頷いたりしている。こうして見ると、まるで新しい玩具を買ってもらえた子供の様に見えた。
そして、何気に未だに和歌の手を握ったままだったりする。