予言の乙女-3-
「…大丈夫か?」
自分を取り戻したのか、些か駆け足気味で駆け寄ってきてくれた人影が労いの言葉を発する。手を差し出され、顔を上げた和歌は、自分の視覚を疑った。
王子だ。王子がここにいる。
ストレートの銀髪はしなやかさと柔らかさをもって肩を流れる。少し憂いを含んだ表情、そこに配されたそれぞれのパーツは小数点三位くらいまで正確に測ったかのように小さな白い顔の上に乗っている。薄い唇は慈悲の笑みを湛え、銀の瞳は長いまつげによって少しだけ影を落としている。
恋愛マンガ好きの友人ならば、今頃目をハートに変えて見惚れているに違いない。
まさしく、これぞ創造主の傑作。美の集大成。
ここに来て、この目で見るのはこれで二人目だ。
何?この世界は美形揃いなの?
たとえば、神様が二人いて、自分達の考え得る美の要素を詰め込んだ人間を造って、地上でイケメンコンテストでも開催するつもりなのかしら?
それとも、もう開催してたりする?あたしにも、ひょっとして投票権があったりしたりして?だって、この世界がどれだけ広いのか知らないけど、こんな短時間で神様から最高の美を与えられた二人に会うなんて、偶然で片付けるにはちょっと無理があると思うわけよ。だからって、運命の出会い!なんて目を輝かせる程乙女チックでもないつもりよ。
だけど、やっぱり、天は人に二物を与えないと思うのよね。だからきっと、この、王子様っていう表現がかすむ程の美形の青年だって、性格が最悪のはず…。
「大丈夫か?随分と待たせてしまったが、それを怒っているのか。それとも、近衛隊が手荒な真似をして何処か怪我を?」
予想外の労いの言葉に、和歌の思考は停止する。