ここは何処?-5-
腕の前で交差させた腕を息を吐き出すと共にゆっくりと下げていき、突然響いた拍手に和歌の黒の瞳が動いた。
「いや、お見事」
雪山の氷山の如く冷めた瞳で和歌が見据える先で、腹黒大王は拍手を続けながら近付いてきた。
「末席とはいえリンベール王国近衛隊の隊長を一撃で昏倒させる相手など、そうそういないよ」
青年の愉快そうな言葉を黙って聞いている和歌の両の拳は握り締められ、長身が目の前に立つ。ふわりと鼻腔を掠めた花の香りに、しかし和歌の怒りが収まるはずもなく。それどころか、悪化の一途を辿るのみだ。
無言で、和歌の拳が青年の綺麗な顔目掛けて放たれる。ここで、綺麗な顔に傷をつけたら大変だとか、そういった常識的な配慮が配られるはずがない。
「っと!」
しかし、和歌の渾身の一撃は目の前の美青年に軽々と受け止められてしまった。手首を握ってくる指は思いのほかがっしりとしていて、和歌は悔しげに顔を歪める。
「おやおや。随分とじゃじゃ馬な姫だ。しかし、だからこそ面白い」
至近距離で愉快そうに微笑まれ、和歌の怒りのバロメーターの針は限界を超える。更にもう一発お見舞いしてやろうかと身構えた時、握られたままだった手を引かれ、突発的だった為に前のめりになった和歌の体を青年の腕が抱き締めた。