王道展開に物申す-3-
後ろは断崖絶壁、とかだったらまだドラマ性もあったんだろうけど、建物二階分程度しかない高さは、それでも飛び降りるにはちょっと躊躇われる。どっかの昔話みたいに清水の舞台から飛び降りて無傷で生還出来る自信も技量もない。魔法が使えたり、翼が生えた動物がいるような世界だったら話はまた別だけれど。
現実はそんな都合よくできていない。
対して、屋内へと続く扉の前には、屈強な男達と西日を受けてキラリと光る槍の刃先がある。
まぁ、要約すると、逃げ道はないって事だ。
とっても不本意だけれど、ここは大人しく捕まるしかないみたい。
「・・・・・・・・・・」
むすっとした表情で両手を上げる和歌の行動は、どうやら異世界の騎士達にもそのニュアンスは伝わったらしかった。構える槍はそのままで、数人が和歌を取り囲む。乱暴に腕を取られて背中に回されて、それは結構痛かった。
「ちょっと!女の子を乱暴に扱うんじゃないわよ!ここの男達には、レディ・ファーストの精神はないの!?」
油断していたとはいえ武装した騎士集団をものの数分で地に沈めた女子に、果たして淑女の素質があるのかどうかという論議はこれまた別の話だ。ここで問題となるのは、相手に思いやりがあるかないかという、この一点のみである。