記憶喪失的情報収集-22-
「前王…ヒルデンハイツ五世様が崩御なされてから、フィルチチェ様が王位を継ぐまでに、また色々と騒がしくてねぇ」
なんか、名前だけは格好いいな、前の王様。ドイツの人みたい。
そして、またどっかで聞いたような話。世界は違っても、そこに生きる人間達の営みって、それ程変わらないのかな。
まぁ、中世とかでよく見られた、王位継承戦争っていう、民衆にとっては超が付く程の傍迷惑な奴ね。
「二年くらい情勢不安が続いて、その間に、隣国との小競り合いとかも加わって、そりゃあもう、大変だったのさ。この王都でも治安が悪くなってねぇ。物流も滞って、一日を生き抜くが精一杯だったのさ」
なんだか、とても不思議な感覚だった。
彼女の語る言葉の全てが、やっぱりあたしには、夢物語のようにしか聞こえない。衣食住に困らずに、それどころか余暇を楽しむ余裕まである現代日本の生活が骨身に染み渡っている身にとっては、食べ物に困るような、一日を必死に生きてきた人達の気持ちなんてわからない。
そう、敢えて喩えるのなら、テレビを見ている感じ。
かわいそうって。そう思う事自体が、あたしはずっと、傲慢な事だと思っていた。