記憶喪失的情報収集-21-
ちょっと身を乗り出してほぼ完成の世界地図を見ていた和歌の目に、耳で覚えた二つの単語が飛び込んできた。
「あ…だから、あの髭騎士さん達は、あたしを見て、アゾマ国とかアザナ帝国の人だって思ったのね」
人の出入りが激しい港街でなら、そういった外国の人がいてもおかしくない。
事実、地図上で見ると、リンベール王国から山脈を挟んだ最北の国がアザナ帝国、対するアゾマ国は隣接する三つの国のうちの一つだった。
「おやおや、あの無粋な集団は、可愛いお譲ちゃんを指してそんな失礼な事を言ったのかい?これだから、武人は嫌いなんだよ」
彼女が嫌悪感を覗かせる理由が、和歌にはわからない。
首を傾げていると、何でもないと綺麗な笑顔で言い切られてしまった。そうされるともう、踏み込めなくなる。
空気は読む人なのよ、あたしは。え?これって、もう古い?
あたしに流行を求めても意味がないわよ。このスカートの丈を見ればわかるでしょ。
「とりあえず、リンベール王国が何処にあるのかはわかったね?この地図あげるから、記憶を取り戻す手掛かりにでもしな」
自分が何処から来たのか、大雑把ながらも正確な国の位置を記した紙を眺めたら思い出すかもしれない。
けれど、哀しいかな。どんなに眺めても、あたしがいた日本という文字は何処にもない。
わかっていた事だけれど、少しくらい気分が沈むのは許容範囲でしょ。赤ちゃんみたいに、泣き喚くわけじゃないんだから。
「それで、あの…その…」
あれ?王様の名前って、なんだっけ?
「…王様っていうのは、どんな人なんですか?」
結局、思い出せずに代名詞を使う。
こういう時、特定の役割を表す名詞って便利だよね。名前はわからなくても、あの花綺麗だねって、それで甘い言葉を囁けるんだから。
「フィルチチェ二世は、まだ若いってのに、立派な王様だよ」
そうそう、その人。
ふぃるちちぇ。なんだかとっても、舌を噛みそうな名前よね。
「前王…つまり、フィルチチェ様の父君は、その…庶民の感覚では理解し難いお方でねぇ」
うまく言葉を濁した彼女だったけど、まぁ、要するに、暴君だったってことね。かの有名な、フランスの王様のように。
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない、と彼の有名な王様のお妃様が言ったという一説があるけれど。ここの前の王様は、なんて言ったのかしら?