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記憶喪失的情報収集-17-
どうやら、食事前の祈りはこれで終わりらしい。
組んでいた手を解き、木製のスプーンにしか見えない道具を持つ二人を見て、和歌もスプーンを扱う要領で湯気の立つスープを木製の道具で掬った。
一口。
「…うん、美味しい!」
口の中に広がる味。シチューに似ているかな。
一度食べ物を口にするともう止まらなくなって、さっきまで抱いていた悩みは一旦地平線の彼方に放り投げておいて、テーブルに並べられた料理に夢中になった。
暖かい、シチューに似たスープが体の中に染み渡っていくのがわかる。心まで温かくなっていくようで、危うく泣きそうになった。
知らなかった。手料理って、こんなにも、暖かくて、優しかったんだ。
「よかった。口に合ったみたいだね」
黙々と食べていた和歌は、安堵したような声に二人の存在を思い出した。鶏肉のトマトソース煮、だと思う、料理にフォークを伸ばそうとした手を中途半端に止めた。
「あ…すみません。お礼もろくに言っていなかったです」
二度目の失態。
これでも全日本空手大会準優勝した身か。
「ありがとうございます」