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記憶喪失的情報収集-12-

 これは夢だ、と唐突に悟った。

 瞼を閉じているのに、周りの景色が見える。

 まるで揺り籠の中にいるかのように、ここは暖かくて、とても居心地がいい。

 それもそうだろう。寝転んでいるベッドは最高級のマットのように柔らかく、染み込んでくる寒さから身を守る毛布は羽毛なのかとても軽くて肌触りがいい。

 天街付きベッドの置かれた部屋はまるで高級ホテルのように広くて、青色を基調とした家具で纏められた室内は心を落ち着かせる効果があるのだろう。飾られている薔薇の華も、主張し過ぎず委縮し過ぎず、景色に溶け込むように静かにその存在を主張していた。

 ここは何処だろう。

 当たり前の疑問を何処か他人事のように、頭の片隅で考えていた。そんな事よりも、今はこの心地よい眠りを優先させたい。

 不意に、誰かに呼ばれた気がした。

 けれど、重い瞼は、まるで硬く閉じた貝のように開いてはくれない。

 また、声がした。低くて、柔らかくて、けれどその奥に白刃の如き鋭さを秘めた不思議な声が、誰かを呼んでいた。

 全身の神経が動いた部屋の空気を伝えてくる。仄かに明るかった視界に影が差して、向けた背中に誰かの鼓動と吐息と体温を感じる。

「――待っていたぞ、『天羅の乙女(ルベリアス)』」

 耳元で囁かれた名詞に聞き覚えがある。

 何処で聞いたのだろう。髪を撫でてくる優しい手は、誰のもの?

 思考が纏まらない。浮かび上がる疑問は言葉を構成する文字として拡散し、その一文字一文字が夢の海へと溶けて消えていってしまう。

 もう一度耳元で囁かれたその名称に、意識とは切り離された唇が応える。

「――…」

 聞こえない。

 愛しげに、切なげに。

 囁かれた誰かの声に、どんな応えを返したのだろう。



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