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記憶喪失的情報収集-11-
パタン、と閉まる扉を凝視した。中庭の賑わいが一層増したけど、その原因については敢えて考えないことにしよう。うん、そうした方が絶対いい。
和歌は、大人しく椅子に座って昼食ができるのを待つことにした。冷たい御影石のテーブルに頬を預けて見える視界に、今まで意識に留まらなかったモザイク画が映る。
「なんだろ…。ランプを持った女性、かな」
落ち着いた色彩を基調とした小さなモザイク画が描くのは、右手に持ったランプを掲げて立つ横顔の女性の姿だ。髪の色は、この世界の人達が纏う金よりも、どちらかというと和歌の色に近い。けれどそこは巧妙にぼかされていて、このモザイク画を描いた人が表現したかった色が何であるのかわからなかった。
「…宗教画、かな?救世主とか、天使とか。そんなところ?」
思考しているはずなのに、頭が回らなくなる。美しいモザイク画が映っている視界がぼやけて、重い瞼が落ちてくる。
あぁ、眠るんだ。
そう思ったのが最後、和歌の意識は夢の海へと沈んでいった。
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