記憶喪失的情報収集-7-
ここが何処なのか、とか。どうしていきなりこんな所にいるのか、とか。
わからない事だらけで、心細い思いをしないといえば嘘だけれど。それでも、握り返してきてくれた手の温もりだけは確かで。だから、少しだけ、大丈夫なような気がした。
「うん、何とかなる」
高い建物の狭間から見上げた青空はとても美しかった。
己に言い聞かせるように呟きを洩らせば、少年の訝るような呼びかけが掛かる。視線を傍らに落して何でもないと首を横に振れば、怪訝そうにしながらもそれ以上尋ねてくる事はなかった。
不意に、少年の手が離れる。隣から走り出して、その先を追った和歌は、少し離れた家の玄関から出てくる女性の姿を見つけた。
「母さん!」
駆け寄った少年の呼びかけに振り返った女性の金髪が流れ、太陽に弾いて輝く様はとても綺麗だと思った。
「ガーネ」
抱きついてきた息子に瞠る目は空の色で、恰幅のいい体でガーネを受け止めた彼女は腰を折って目線を同じにした。
「お帰り、ガーネ。遅かったね。何かあったのかい?」
「うん、ごめん。ちょっと、絡まれて」
「ごろつき共にかい?あれ程気を付けろと言ったじゃないか」
「ごめんなさい。でも、あのお姉さんが助けてくれたんだ」
母子の微笑ましい遣り取りを眺めていた和歌は、二対の青色の瞳を向けられて、無意識のうちに背筋を伸ばしていた。
「おやおや…」
和歌の奇怪な姿を頭からつま先までゆっくりと眺めた女性は、ガーネを引きはがして近付いてきた。