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記憶喪失的情報収集-3-
「名前…うん、覚えてるよ。そういえば、まだ名乗ってなかったんだっけ」
なんたる失態。
礼に始まって礼に終わる。それが、武道の教えだ。
仮にも全日本空手大会で二位の私が、こんな基本的な礼を欠くなどと。
「あたし、北原和歌。よろしくね、ガーネ君」
自分の失態に対する怒りにふるふると数秒震えていた和歌は、怪訝そうな少年の視線に気付いてにこりと笑った。手を差し出して、けれど困ったような顔に首を傾げる。
数秒、純真な青の瞳を見つめる。こんなに至近距離でまっすぐ見つめられる事なんてここ数年なかったので、場違いだと思ったけれど頬が熱くなるのは意識ではどうにもならない。
「…あぁ、そっか」
握られない手の原因にようやく思い至って、ぽん!と手を打つ。そうしてもう一度、右手を差し出した。といっても、今度はちゃんとした解説付きで。
「右手を握り合うの。握手って言うんだけど、あたしの国の挨拶の仕方」
華の咲くような笑顔を浮かべて手を差し出し続ければ、やがて戸惑いながらも少年は和歌の右手を握り返してくれた。