記憶喪失的情報収集-2-
難しい顔をして考え込む和歌を、困惑よりも不審を深くした少年は見つめる。
必然的に、再び沈黙が落ちる世界。民家が密集する狭い路地裏は静かで、駆け抜ける風は細い道を駆け抜けていく。
「…お姉さん、ひょっとして、記憶喪失?」
己の中で不審と疑惑の天秤を掲げていた少年の辿り着いた結論は、当然といえば当然のものだったのかもしれない。
見慣れない服装。
珍しい髪と瞳の色。
認識のない国名。
これだけで、異世界から来たのだ!なんて考える方が、頭が大丈夫かと言われる危険性の孕む思考だ。
記憶喪失なのだと、理論的思考が導き出す最適な結論だった。
「あ――…うん。そうみたい」
などと、顔を上げた和歌が深く考えるはずもない。ただ、自分でもどうしてこんな所に来たのかわからないし、そもそも日本の事について話すのが面倒だったのだ。
だから、少年の確認は和歌にとっては救いの手だった。
「そっか…。それは、心細いよね。お姉さん、名前くらい覚えてる?」
和歌の自分勝手な理由でついた嘘を信じきった少年に良心がちくりと痛んだものの、仕方のないのだと片付ける。
たとえここで時間を割いて話しても、信じてもらえるはずがないのだから。