ここは何処?-15-
街全体を見渡せる小高い小さな広場を駆け抜けた風は、和歌の頬を撫でていく。それはまるで薄衣のように和歌を優しく包み込んだ。
泣くものか。泣き叫んでこの状況がどうにかなるというのなら話は別だけれど、夢でない事を、もう信じない訳にはいかない。
今時の女子高生と比べれば長い、けれど確実に校則に違反する短めのスカートが汚れる事も厭わずに、和歌は石畳に腰掛けた。柵も何もない高台の眼下は落ちたらただでは済まない高さであるが、空中に浮かぶ足をぶらぶらと揺らす和歌は、全く恐れていない様子だった。
「…ほんと、ここ、何処なんだろう」
まるで網の目のように張り巡らされた狭い路地に寄り添うように所狭しと建てられた家は、この前テレビで見たヨーロッパの田舎町を思い起こさせる。かなり距離があるのか、霞んで見える彼方には、深い森や沼地があり、地平線は海の色だ。
露台に干された洗濯物が風に乗って揺れる様や、高い家の壁に挟まれた細い路地を行き交う人々の様子は、確かにこの世界が生きているものである事を和歌に伝えてくれる。
目の前の光景は、きっと日常のもの。非日常なのは、自分の方。
「ここでこうしてても、何が変わるわけじゃないんだけどな…」
頬を撫でる風は心地よくて、見上げればまだ何処までも澄んだ青い空が広がっている。
こうしてここで座っていても、何かが変わるわけじゃない。ただ無為に過ぎていく時間の中で、異質としての自分を更に根深く認識させられるだけだ。