ここは何処?−11−
故に、体力の限界が訪れるまで走り続けること、何分が経ったのか。ふと届いた喧騒に、和歌は足を止めた。
その喧騒の発生源はどうやら自分がいる路地が突き当たる別の小道らしく、背後を振り返って鬼の影がない事を確かめた和歌は、様子を窺うように足音を忍ばせて歩き出した。冷たい白壁に背を預けて、角の向こうをそっと窺う。
「ふざけんなよ!ぶつかってきたのはお前達じゃないか!」
狭い路地裏に反響する程の大声で喚いているのは、まだ十歳前後の少年だ。喧嘩を吹っかけている相手は屈強な、明らかに柄の悪いと分かる数人の男達だった。
「…これって、いわゆる、いちゃもんってやつ?」
推測するに、ここまでの経緯はこうだ。
お母さんにお使いを頼まれた少年、仮に太郎君と名付けよう。太郎君(仮)は、家への帰り道の途中、柄の悪い男達が前から歩いてくることに気付いた。狭い路地裏。何とか交差しようと体を横にして進むも、その肩が男の一人の腕に当たった。それはどう考えても太郎君(仮)の所為ではないのだが、骨が折れただのといちゃもんをつけ始め、治療費を出せなどと迫っている最中、と。
「何処の世界にもいるんだなぁ、あーゆー馬鹿って」
嫌だ嫌だと首を振も、再び喧騒の様子をそっと窺い、どうもまずい状況になってきていることに、和歌は諦めたように溜め息をついた。
「お節介はあたしの十八番、だもんね」
こればっかりは、生まれもったものだから仕方がない。