ここは何処?−10−
しかし、直感だけは良かった。怒りが収まる代わりに燃やされていた闘志が影を潜めれば、和歌は我に返る。そして、砂利を踏む耳障りな足音とこちらに近付いてくる甲冑姿の集団を視界に入れた瞬間、本能が警鐘を鳴らした。
「逃げたほうがいい…よね?」
昔から友達に動物並みの本能だと散々言われてきた和歌である。今回も己の直感を信じて、くるりと向きを変えて走り出した。両脇に所狭しと露店の並んだ大通りを逃げながらちらりと背後を振り返れば、さっきまでは歩いていた甲冑集団が走り出した事がやはり標的は自分だったのだと和歌に再認識させる。
しかし、常日頃から鍛えられている和歌の走るスピードは思ったよりも速い。この鬼ごっこは、どう考えても、重い甲冑を着た鬼達よりも身軽な和歌の方が有利だった。
人通りの多い大通りを適当に曲がり、小道に入る。賑わいを見せていた通りとは違い住宅の密集した路地裏はまるで迷路の様に細い道が張り巡らされていて、少し走っただけで和歌は方向感覚を失った。
元々ここは見ず知らずの場所だ。方向が分かっても何処へ行けばいいのかなど見当もつかない。ならば、今は無駄な思考はせずにとにかく危険を回避する事に専念するべきだ、等という理路整然とした思考回路が和歌の中で築かれるはずもなく、ただ危険を察知する嗅覚の鋭さだけで直感的に最善の方法と少なくとも自分が思っている行動を和歌は取っていた。