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第十四譜 壁が立つなら壊すまで

 ――三、四、五…十秒と時が経ったところで、修練場を照らしていた眩いエトナ達の〈合力〉の光が消える。

 同時に二人の体の奥底から湧き上がっていた全能感も一瞬にして消え、若干の倦怠感が押し寄せた。

 それでも、もう一度、と手を繋いで発動させるも時間は変わらない。疲労感だけ残り、思わず膝をついてしまう。


「も、もう終わりなの……?」

「手は離せたし、保持時間も延びたけど……」


 保持時間はたった七秒延びただけ。目標としている数字は、まだまだ遥か遠いところにあった。

 その事実が、今まで以上に二人に焦燥感を生み出す。


「あそこまでにしたのに……どうして……」

「まだなにか必要なのか……?」


 けれど、もう二人には何も思い浮かばない。想いを曝け出し、愛を告げて『心』が繋がったのだ。

 前提条件をクリア出来た今、()()()はもう出来ない。


「……いやいや、必要もなにも勘違いしてるだろおまえら」

「どういう……ことよ」

「見ててこっちが恥ずかしくなる愛の告白やって、自分達に酔いすぎた? 忘れてるかもしれないけど、『ソレ』は前提条件なのよ」

「あ……」


 近づいて答えを教えてくれるイリーナとミツキに、浮き足立っていた思考と心が一瞬にして元に戻った。

 

「気付いた? そこから先は、さっきも言ったように『後付けの法則』を磨くしかないのよ」

「んでもって、他の奴らが学んできたこの一年間、前提条件に手こずっていたおまえらにその技術はない。スタートラインに立っただけ。一年、コツコツやってきたおれ達にそんな簡単に追いつけるわけないだろ」

「それはそうだけど……」

「あの雰囲気からの〈合力〉発動は、やれるって思っちゃったよね」

「現実はそんなに甘くないってことよ」


 合点が行ったことでどうにか現状を受け入れることは出来た。だが、そのせいで先程まで消えていた焦燥感が鎌首をもたげてくる。


「……〈合力〉は、〈気力〉と〈魔力〉を完璧に寸分の狂いなく比率を調整していくことで、保持時間や操作技術、『固有能力』が身に付いていく。けど、それには何年・何十年っていう修練が必要だ」

「〈道導〉っていう例外はあるけど、あんな大英雄と見比べるだけ無駄。言っとくけど、あんた達はこっからが大変よ。ただでさえ、ウチら以上に〈力〉のバランスが悪いんだから。一応、無理やり出力を上げてそこの比率だけは釣り合わせるっていう方法もなくはないけど」

「……限界を超えて出すことになるから、リスクしかないな」


 八方塞がりがエトナの思考を埋め尽くす。

 前提条件を突破した嬉しさはもちろんある。保持時間も、一年かけてやっと三秒だったところがこの一瞬で七秒も増えたのだ。これから遅れを取り戻すように修練を積めば、もっと保持時間は増えるだろう。

 けれど、エトナ達が欲しいのは『今』の結果だ。誰もが手のひらを返すような偉業を成し遂げようとしている二人に、一年以上も時間はかけられない。

 そんな悔しそうに歯噛みするエトナを慰めるように、イリーナ達は現実的な声を掛ける。


「……ま、〈合力〉が切れた時の暴走もなし。安定は出来たんだから、コツを掴めばなんとかなるだろ」

「そうだね。そもそも、これはみんなが辿ってきた道よ。今までは、操作もままならないのに足踏みし続けるしかなかったけど、今は違うでしょ。お互いの心の奥底を知った上で操作するのとじゃ、習得スピードは段違いのはず。それは分かるでしょ?」

「まぁ……。分かる、分かるけど……」

「ちなみに、ミツキたちはどうやって保持時間を延ばしてるの」


 アッシュに問われ、ミツキがイリーナの手を取って自分の方に寄せる。ミツキの方が身長が低いから違和感がありそうな動きだが、それを感じさせない自然な動き。イリーナも咄嗟のミツキの動きに逆らうこともなく、身を委ねて受け入れている。

 収まりが良いというレベルでもなく、ミツキの傍にイリーナがいるのが『当たり前』というのが目に見えて分かった。

 

「おれたちは、イリーナの〈魔力〉をおれが〈気力〉で絡めて操るって感じで安定させてる。暴れる動物に縄をかけるイメージって言えば分かりやすいか?」

「その例えはなんか嫌だけど、その通りね。だから、これを参考にするならあんた達の場合は、役割が逆。エトナが、アッシュを操るの」

「私が……」

「出来るでしょ?」

「出来る、と思うけど――」


 そこには自信がある。アッシュの瞳を見れば、なんだってやれそうな実感だってあった。

 だが、要求される水準はイリーナ達よりも遥かに高いことを考えると、今までの悲観的な自分が現れてくる。

 不安が顔を出しそうになってアッシュの方を見るが、アッシュはミツキの方をじっと見ながら何かを考えていた。


「うん、なるほどね」

「アッシュ……?」

「エトナ、このままやっても時間が足りないってことは分かるよね? で、それをどうにかするには何か画期的な方法を見つけるしかないってことも」

「うん……。でも、そんな方法あったらみんなやってると思うんだけど……」

「そうだね。むしろ、それを探す時間の方がかかりそうだ。多分人生まるまる懸けて、見つかるかどうかってところだろうね」


 だから――と、言葉を切ってアッシュはエトナの手を取り立たせる。


 ――先程の超高速組手。お互いのやりたいことを見抜き、信じて動く姿。そうして現れる『安心感』。

 アッシュは、イリーナ達がやっていたことを一つ一つ思い出し、頭の中で自分達と照らし合わせる。

 そうして、真っ赤な瞳に告白の時と同じような満面の笑みを浮かべて言う。


「手を離すの、やめよっか」

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