第19話 治安出動
抗議は、ついに火を噴いた。
統合圏小国の北部都市で、
中央価格統制に反発した農民が、
穀物倉庫を封鎖した。
石が投げられ、
兵が盾を構える。
暴動というほどではない。
だが初めて、
統合圏内で「治安出動」が宣言された。
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報告は即座に城へ届く。
「統合司令部が鎮圧を指示」
文面は冷静だ。
「秩序維持のため、最小限の武力を使用」
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アルトは報告書を握る。
「最小限、か」
それは便利な言葉だ。
規模は小さい。
だが前例になる。
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議会ではマティアスが言う。
「秩序は経済の前提です」
「暴動は投資を遠ざける」
統計が示される。
暴動発生地域の取引停止。
損失予測。
数字は、中央を正当化する。
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「原因は?」
主人公が問う。
「価格統制の硬直では?」
「一部地域の感情です」
マティアスは即答する。
「全体の利益を優先します」
全体。
その言葉は強い。
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その夜。
エルミアが再び城を訪れる。
顔色は青い。
「兵が入りました」
「負傷者は?」
「数名。重傷者は出ていません」
だが震えは隠せない。
「地方議会は抗議を決議しました」
「中央は?」
「治安維持を優先すると」
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城壁の上。
「これが速さだ」
アルトが低く言う。
「秩序は戻る」
「ええ」
「だが」
彼は続ける。
「守れていない」
初めて、はっきりと言った。
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「軍は出動命令を受けています」
彼は告げる。
「我が国も、統合司令部の一員だ」
重い現実。
統合は現実になっている。
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「出るのですか」
主人公の声は静かだ。
「命令が出れば」
沈黙。
守るための軍が、
地方を抑える側に立つ。
それは想定していた未来か。
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「あなたはどう思う」
アルトが問う。
彼女はしばらく答えなかった。
「秩序は必要です」
「だが」
「原因を直さなければ、繰り返します」
風が強い。
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翌朝。
中央は追加通達を出す。
――抗議地域への資金配分を一部凍結。
理由は「安定回復まで保留」。
制裁に近い。
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議場が揺れる。
「逆効果だ」
「秩序を守るためだ」
意見は割れる。
だが中央の決定は速い。
そして覆らない。
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アルトは報告を閉じる。
守るとは何か。
市場か。
秩序か。
人か。
速さは、確かに守る。
だが何を守っているのか。
その問いが、初めて彼の胸を強く打った。
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遠く、北部都市で夜が更ける。
兵の足音が響く。
抗議は静まる。
数字は安定する。
だが心は、静まらない。
速さは秩序を戻す。
だが修正がなければ、
次の火種は、消えていない。




