第18話 制度の再設計
再審査は、中央にとって屈辱だった。
条約の条文を突かれ、
決定の一部を凍結させられた。
統合は崩れていない。
だが、傷はついた。
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中央監査官マティアス・レンは、
静かに次の書類を用意していた。
「条約補足規定の追加を提案します」
議会に提出された文案は簡潔だ。
――再審査申請は中央監査機関の事前承認を要する。
空気が凍る。
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「修正条項の実質無効化か」
若手議員が言う。
「制度の安定化です」
マティアスは淡々と返す。
「乱用は全体最適を損なう」
正論だ。
条文は使われた。
ならば塞ぐ。
中央は速い。
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議場はざわつく。
統合支持派は頷く。
「制度の安定が必要だ」
「例外は混乱を招く」
成功が続いている今、
“安定”は強い言葉だった。
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彼女は黙って補足規定を読む。
塞がれる。
予想はしていた。
中央は学習する。
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「反対します」
静かな声。
だが今回は違う。
彼女は条約を開かない。
代わりに、別の資料を出す。
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「統合圏小国三地域が、再審査条項の維持を求めています」
エルミアの署名がある。
「地方抗議が拡大しています」
数字が示される。
中央都市の成長率。
地方の失業率上昇。
統計の中の“偏り”。
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「一時的揺れです」
マティアスは即答する。
「成長過程には必ず発生します」
「では」
彼女は言う。
「揺れが収まらなかった場合の修正条項はありますか」
沈黙。
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「中央は誤らない」
マティアスは言う。
「誤りは統計上存在しません」
「統計に現れない損失は?」
さらに踏み込む。
「地方の声は数字に出ません」
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議場が静まり返る。
これは思想の衝突だ。
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「統合は強い」
彼女は続ける。
「ですが強さは、修正できるときのみ持続します」
「修正は中央の権限だ」
「ええ」
「ならば修正を閉じる理由はありません」
静かな論理。
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アルトはそれを見ている。
中央を敵にしない。
統合を否定しない。
だが核心を突く。
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「補足規定は保留とします」
議長が言う。
即決できない。
中央は速い。
だが速さは、今は使えない。
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夜。
城壁の上。
「中央は次を打ってくる」
アルトが言う。
「ええ」
「お前は読んでいるな」
「制度は動きます」
風が吹く。
「動くものには、次があります」
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遠く、統合圏小国で抗議が拡大する。
小規模だが、増えている。
速さはまだ正しい。
だが修正の有無が、
徐々に議論の中心へ移り始めていた。
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制度は完成していない。
中央も、地方も。
だが今、
速さと修正は、
真正面からぶつかり始めていた。
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