第14話 速さの光
統合発効から一か月。
市場は、目に見えて活気を取り戻していた。
港には統合圏の旗を掲げた大型船が並び、
荷は山のように積み下ろされる。
為替は安定し、
銀貨はもはや投げ売りされていない。
掲示板の数字は、緑で埋まっていた。
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「見事だな」
商会代表グレアム・ハルドが議場で言う。
「投資は三倍。物流は倍増」
実際、統合圏の共通関税撤廃は即効性があった。
港湾整備のための中央資金も、すぐに下りた。
決定から実行までが早い。
驚くほどに。
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軍も恩恵を受けていた。
統合司令部が設置され、
兵站は効率化された。
「補給が滑らかだ」
アルトが報告書を見る。
「これが中央の力か」
認めざるを得ない。
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市民の空気も変わった。
「安心だ」
「やはり正しかった」
統合支持は、もはや疑われない。
敗北は、過去の話になりつつあった。
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彼女は城の窓から港を見下ろす。
速い。
確かに速い。
工事は夜通し進み、
港の拡張計画も即承認された。
自分たちの制度では、数か月かかる決裁が、
数日で通る。
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「間違いだったかもしれません」
小さく呟く。
誰もいない部屋で。
速さは、結果を出している。
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その頃、統合圏内の別の小国。
地方都市で、小さな会議が開かれていた。
「中央価格に合わせろと言われた」
農業組合長が言う。
「原価では赤字だ」
「補助金は?」
「中央基準を満たさない」
声は小さい。
まだ抗議とは呼べない。
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城に一通の書簡が届く。
差出人は、エルミア・ドラン。
統合圏小国の若き外務官。
「直接お話ししたいことがあります」
簡潔な文面。
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夜。
城壁の上。
「成功だな」
アルトが言う。
「ええ」
彼女は頷く。
「守れた」
「ええ」
しばし沈黙。
アルトは視線を落とす。
「お前は、まだ疑っているな」
「疑ってはいません」
少しだけ間があく。
「観察しています」
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統合は成功している。
少なくとも今は。
速さは結果を出し、
安心を与え、
市場を回復させた。
誰もが言う。
これが正解だと。
だが。
成功は、最も危うい瞬間でもある。
速さの光は強い。
強すぎる光は、
影を濃くする。
まだ誰も、その影を見ていない。




