第13話 決定の日
議場は満ちていた。
人も、緊張も。
投票は、今日だ。
統合案。
相互信用網。
どちらかを選ぶ。
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若手議員が最後の演説に立つ。
「我々は孤立しています」
「市場は既に答えを出しました」
「軍も支持しています」
数字を掲げる。
為替は持ち直している。
投資も一部戻り始めた。
「速さは力です」
拍手が起こる。
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彼女は静かに立つ。
「速さは必要です」
視線が集まる。
「ですが、修正できない速さは、やがて折れます」
ざわめき。
「中心が折れれば、全体が折れます」
声は揺れない。
「私たちは、崩れない形を提案しました」
だが空気は、もう読める。
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投票が始まる。
一票。
二票。
三票。
賛成が、わずかに上回る。
最後の一票。
若手議員の手が上がる。
「統合案、可決」
静かな宣言。
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拍手が起きる。
安堵の息。
市場は即座に反応する。
為替が跳ね上がる。
掲示板の数字が、明確に回復する。
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彼女は立ったまま、動かない。
敗北。
止めなかった。
選ばせた。
そして、選ばれなかった。
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アルトが近づく。
「……すまない」
低い声。
「謝る必要はありません」
穏やかだ。
本当に穏やかだ。
「あなたが選びました」
責めない。
それが、胸を締めつける。
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夜。
港には祝杯の声。
商人は笑い、投資家は戻る。
安心。
速さは安心をもたらした。
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城壁の上。
「これで守れる」
アルトが言う。
「ええ」
彼女は答える。
そして、続ける。
「今は」
風が強く吹く。
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統合は発効する。
中央監査機関が設置される。
共通通貨導入準備。
市場は安定する。
急速に。
速さは、正しかったように見える。
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だが。
遠く、統合圏内の小国から、
小さな報告が届く。
地方工房の閉鎖。
価格統制による収益悪化。
資本の中央集中。
小さな数字。
まだ問題ではない。
だが芽はある。
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彼女はその報告を読み、
そっと閉じる。
敗北は終わりではない。
制度は、運用で形を変える。
修正できるかどうか。
それが、次の戦場だった。




