第12話 並び立つための提案
投票は三日後に決まった。
議場の空気は、すでに結論を知っているかのようだった。
軍は支持。
商人の半数は統合賛成。
為替は持ち直しつつある。
「決めるべきだ」
若手議員が言う。
「不安定を長引かせるべきではない」
理にかなっている。
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その夜、彼女は財務局の小会議室にいた。
机の上には、新しい図。
中央を持たない円環。
いくつもの小さな点が、互いに線で結ばれている。
「多国間相互信用網」
若い財務官が読み上げる。
「通貨は維持。ただし二国間決済保証を連鎖させる」
「中央保証は?」
「置きません」
ざわめき。
「中央が折れれば全体が折れるからです」
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説明は単純だ。
統合圏のような一本の柱ではなく、
複数の柱で支える。
遅い。
効率は悪い。
だが一点崩壊しない。
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「理想論だ」
財務官の一人が言う。
「市場は単純な安定を好む」
「ええ」
彼女は頷く。
「ですが、依存は強さではありません」
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翌日。
公開討論が決まる。
統合案支持派と、対抗案。
国を二分する議論。
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城壁の上。
「お前は、反対に回るのか」
アルトが問う。
「反対ではありません」
「なら何だ」
「別案を出します」
彼の眉が動く。
「統合を否定しない」
「ええ」
「だが、一本にはしない」
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「軍は支持を表明した」
アルトの声は低い。
「俺の責任だ」
「ええ」
彼女は否定しない。
「あなたの選択です」
短い沈黙。
夜風が強い。
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「止めないのか」
再びの問い。
彼女はゆっくりと答える。
「止めません」
そして続ける。
「ですが、並びます」
アルトが目を上げる。
「対立しても?」
「ええ」
「支持が割れても?」
「ええ」
静かな覚悟。
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公開討論の日。
議場は満席。
商人も兵も、市民もいる。
若手議員が先に立つ。
「統合は速さです」
「市場は既に答えを出しています」
為替の回復を示す。
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彼女が立つ。
初めて、中央で。
「速さは必要です」
ざわめき。
「ですが、一本に集中すれば、折れたとき戻せません」
円環図を示す。
「多国間相互信用網」
「遅い」
声が飛ぶ。
「ええ」
認める。
「ですが、崩れません」
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ルシアンが静かに言う。
「中心なき連携は瓦解します」
王国の論理。
「決断の速さが文明を進めます」
視線が彼女に向く。
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「中心が折れれば、文明は止まります」
彼女は返す。
「私たちは、止まらない形を選びます」
議場が揺れる。
これは統合拒否ではない。
新しい提案だ。
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アルトは黙ってそれを見ている。
軍支持を表明した自分。
別案を出す彼女。
並び立つとは、こういうことか。
対立しても、背を向けない。
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投票は翌日に持ち越された。
天秤は再び中央に戻る。
速さか。
崩れにくさか。
それとも、別の形か。
国は今、初めて自分の文明を問われている。
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