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死体と死にかけの肢体が、あちこちに転がる。
血だまりはもはや道だけでなく稲穂まで濡らしていく。
その惨状を現在進行形で作り出しているサナ自身はまだ軽傷しか負っていない。服もほとんど破れておらず、飛び散る鮮血はほぼ全て返り血だ。幾度も武器を受け止め、弾き、受け流してきたカランビットは刃こぼれが目立ってきているが、鎌刃という形状は先端さえ鋭ければ武器としての有用性はさほど下がらない。
悲惨なのは男たちの方だ。
人数は遥かに多く、武器は同程度が多数、さらに一部は威力でも射程でも勝っている。
なのに──勝てない。
サナを殺せない。
歴然とした差を生み出すのは──動き。
男たちは行動のたびに止まる。
攻撃するための位置につき、武器を構え、チャンスと見て武器を振るう──その一連の動きが連続していない。その攻撃も一撃一撃が大振りで、それでは威力は高くても避けられやすく、そして避けられた後のことを考えていない。
対照的にサナは動く、動き続ける。
カランビットで武器を受け止めると同時にもう片方のカランビットで攻撃、背後からの攻撃を回避しつつ前方の男の脇腹をすれ違いざまに切り裂き、振り回される刀をカランビットの背で弾いて別の男との同士討ちを誘発。攻撃、防御、移動、回避がほぼ一体であり、目の前の男を傷つけ殺したとしてもそれは結果ではなく生存のための過程であり、意識は次の攻防を考えている。
殺しに対する意識が違い過ぎて、ただ数で勝っているだけの男たちでは勝ち目がない。
さらに悲惨なのは猟銃を持った男たちだ。
彼らはサナに優先的に狙われ、発砲どころか狙いを付けることもできずに殺される者もいる。少し運が良い射手でも男たちの間をすり抜けるように動き続けるサナに照準が追い付かず、発砲した弾は仲間にばかり当たり、そして排莢や装填の隙をつかれて切り伏せられる。
一方的。
あまりにも一方的な殺戮。
だが──
「みこさまのために」
「みこさまのために」
「みこさまのために」
余裕を見せているのは男たちの方だった。
サナには意味不明な言葉を呪文のように呟きながら、まるで死ぬために──死ぬことなど無いかのように襲ってくる男たち。星明りに照らされる彼らの死に顔には、苦痛には歪んでいても無念や驚愕といった表情はない。薬物漬けにされたり洗脳された殺し屋が相手でもサナにそんな経験はない。
そもそもサナは自分がなぜ襲われているかすら分かっていないのだ。
戦闘で有利なサナは状況を何も把握しておらず、
状況を把握している男たちは次々と殺されていく。
あまりにもアンバランス。
あまりにも異常。
殺戮の夜。
もはやサナは何人殺したか、何人敵が残っているか分からなくなっていた。
そして
どこからともなく
鈴の音が響いて
世界は──流転する




