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女装暗殺者サナの血塗られた受難、あるいは神に愛されし呪村  作者: RYO
7章 たったひとりの冴えない殺し屋

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7-4

 サナは尻もちをつくようにして地面に倒れていた。

 その全身は真っ赤に染まっている──()()()()()()()()()()()


「……みこっち?」

 ”みこさま”はその小さな体でサナを突き飛ばし、見えない刃で切り裂かれていた。そして、力を失ったその身体がサナにもたれかかるようにして倒れこむ。

 サナは、無傷だった。だがその顔には悲痛な表情を浮かべている。

「な、んで──」

 サナはバカだ。それでも、”みこさま”に庇われるという状況に意味が通っていないことは理解できている。

 ”みこさま”は、その口からも血を溢しながら、サナの疑問になんとか答えようとする。

「ぁ……わかん、ない……よ……」


 ”みこさま”は結局のところ傍観者でしかなかった。

 それでも──自分でも理由が分からないのに──サナは死ぬべきではないと、考えた。


 そんな二人に……”神”は、淡々とした声を投げかける。

「予定調和に収束したか。まぁ、いいだろう。それでは別離といこうではないか、依代の少女よ」

 そうして”神”が刀を鞘に納めると、

 

 ──空気が一変した。

 

「っ!?」

 突然吹き荒れた突風に、サナは反射的に腕を上げて顔を庇う。

 明らかに異常な風、それは”神”の周囲から発生している。

「では、さらばだ。我はあの日──()()()()()()()()()()()戻らせてもらおう」 

 異常な状況でも落ち着いたその声に、深手を負ったはずの”みこさま”は目を見開いてなんとか体を起こす。

「戻る……戻る、ってどういうこと……!」

 風がますます強くなる。

 ”神”は、もはや嘲りを隠そうともしない声でその疑問に答える。


「この程度も理解できんか……我を打倒したとのぼせ上っている神々どもに、一泡吹かせてやるということだ。()()()()のせいであれらも無傷とはいかない、こうして快復した我が戻れば──ひとたまりもないだろうな」


「そ、それは……そんな、過去を変えたら、大変なことに……!」

「……なんだっけそれ。た、タイム……パラパラ?」

 ”神”がやろうとしていることを理解した”みこさま”は必死に声を絞り出し、状況を理解できていないサナは呑気に呟く。

 過去に戻り、過去を変える。


 それが意味するのは──サナが言いたかったことは──()()()()()()()()()


 だが”神”は、本気で呆れたような声を出す。

「我を無礼るなよ、依代の少女よ。矮小な人間如きがその卑小な脳味噌で考えただけの矛盾など、我ら神に通用すると本気で思っているのか?」

 だが──と、”神”は続ける。


()()()()()()()()()()()()()()は、我も知らんことだがな」


 そして、もはや目を開けていることすら困難なほどに風が吹き荒れて──

 ”神”の、姿が消えた。

 その一瞬、先ほどまでが嘘のように風が止み、存在していたはずの石灯籠が消え失せて──

 

 ──空間が崩壊を始めた。

 

「な──えぇぇッ!?」

 先ほどまでの嵐ですら比べ物にならないほどの圧に、サナは素っ頓狂な声を上げる。

 洞窟全体がガラガラと音を立てて崩れ始めたが、それは単なる物質の崩壊ではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あぁっ、もう!」

 ショックから立ち直ったサナは素早く出口へと──”みこさま”を放置して──走り出し、しかしすぐにその足は止まってしまう。

「そ、んな──」

 サナの眼前、先ほどまで存在していたはずの外への通路は既に空間の崩壊に巻き込まれていた。逆さまの鳥居ごと瓦礫で埋め尽くされ、そしてその瓦礫すら空間の崩壊に巻き込まれて耳障りな轟音を立てながら瓦礫から破片へ、破片から土くれへ、そして果ては塵へと変貌していく。


 もはやサナに成す術はない。バカなサナですら、それを認識できてしまった。


 一瞬、サナは全ての動きを止め──

「──ああぁぁァァッ!!」

 吠えたてて走り出した。

 この空間に残された自分以外の唯一の存在、

 

 ”みこさま”の元へと。

 

「ちょっとみこっち!」

 明らかに重傷を負っている”みこさま”に対して容赦なく胸倉を掴み上げ、まるで乱暴に接吻でもするかのように顔を突きつけてサナが怒鳴る。

「全部ゼンブぜんぶあんたのせいだろ! どうにかしろよ!」

 ずっと虚ろな瞳を浮かべていた”みこさま”は──その言葉に、僅かに目に光を戻した。


「どうにか、って──」

「どうにかだよ! 神様だとか言ってたんだからどうにかできるだろ!」


 絞り出すような”みこさま”の声に、サナは周囲の轟音にも負けないほどの声量で無茶ぶりを続ける。

「そ……そんなの──」

 当然ながら”みこさま”は言葉を詰まらせる。

 だがサナは必死の形相でさらにヒートアップしていく。


 もはや、この空間が崩壊しきるまで時間が無い。


「村のヤツらを生き返らせて、村を燃やしても全部なかったことにしてたじゃん! それくらいのことやれって言ってんの!!」

 その要求に、しかし”みこさま”は弱々しく首を振る。

「無理……もう、そんな力は、私には……」

 だがその程度で諦められるなら、サナはそもそもここまで来ていない。


「じゃあさじゃあさ! もっかい時間を戻してよ! そしたらわたし、もうアクセル全開で逃げるから! ()()()()()()()()()()()()()!?」

「だから、それも──ぁっ」


 サナの無茶ぶりに否定を重ねようとして──”みこさま”は気づいた。

 ある仮説に気づいた。

 崩壊する空間に追い立てられるサナは、その言葉尻に必死で食らいつく。


「”ぁっ”!? それ、できるって反応でしょ! できるんならさっさと──」

「いまこの瞬間、刻の流れは過去に逆流している」

「えぇっ!?」


 突然の言葉にサナは怪訝な声を上げる。

 だが”みこさま”は、まるで答え合わせをするかのように言葉を続ける。


「自力で刻を戻すことはできなくても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なに言ってるか分かんないって!」

「刻の流れの始点はここ、そして終点はあの日。当然、刻の矛盾が起きるけど、もうすでに矛盾は起きてしまっているんだから──」

「ねぇみこっちみこっち? もういつ潰されるかわかんないってわかってる? バカなの? わたしよりバカなの?」


 一周回って冷静になり始めたサナ。

 そんなサナに対して”みこさま”は──その視線の焦点を合わせた。

 一瞬、崩壊する空間も轟音すらも忘れてその視線に気圧されたサナに対して、”みこさま”は厳かに告げた。


「本当に、いいの?」

 それは神の祝詞か、悪魔の呪詛か。


 そしてサナは──どこまでもバカなサナは──

「いいからやれって! なんでもいいからさァ!」

 一瞬も躊躇せずに即答した。

 その返答に”みこさま”は──まがい物の神は──ずっと騙され続けてきた哀れな存在は、

 

 微笑んだ。

 サナが──殺し屋が──全てをぶち壊した存在が、言葉を失うほどに可憐な微笑みだった。

 

「そう、それなら──()()()()()()()

 

 二人は見つめ合う。

 崩壊の波はとうとう二人の元にも破滅の触手を伸ばす。

 そして、全てが無に帰す瞬間──

 


 世界は──流転する

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