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女装暗殺者サナの血塗られた受難、あるいは神に愛されし呪村  作者: RYO
6章 殺し屋に花束を

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6-3

「……いやまだ話してないことあるよね?」


「──ぇ」

 今度は”みこさま”が虚を突かれた。

 前垂れに隠れていても分かるほどその驚愕の表情には裏が無かったが、サナは唐突にヒートアップして捲し立て始める。


「あんた! ここまできたのにわたしをだまそうとしてるでしょ! わたしがバカだからってバカにしないでよ!!」

「ちょ、ちょっとま──」

「うるさいっ! あんたも、あんたもあんたも全部ぜんぶわたしをバカにしやがって!」


 ”みこさま”の制止も聞かずに、サナはまるで癇癪を起こした子どものように両腕を振り回し始めた。だが子どもと違って恐ろしいのは、その両腕の動きに従って握られたままのカランビットがヒュンヒュンと空を切り裂いていることだ。

 その刃先は奇跡的にまだ誰も傷つけていないが、”みこさま”は首に刃先を突き付けられていた時よりも恐怖を感じていた。

 

 つまるところ──サナもわりと疲れていた。精神的に。

 

「どいつもこいつもあんたもあいつも全部ぜんぶゼンブ!!」

 一人でどんどんヒートアップし続けるサナに、”みこさま”は気圧された様子で後ずさって距離を取る。

 そして深く息を吸い込み、前垂れの鈴を鳴らしながら力強く叫んだ。

「落ち着け!!」

 ピタリと、サナが動きを止めた。

 それほどの力が”みこさま”の声には込められていた。


 その隙を逃さず、今度は”みこさま”が畳みかける。

「私は全てを話した! 全てをだ! これ以上何も隠していることなど無い!」

 ”みこさま”の言葉に嘘はない。それはサナでも分かるほどだ。

「私が憎ければ殺せ! それで全てが終わる! 殺せないというなら──このまま帰れ! 後は自分でなんとかする!!」

 ”みこさま”は真剣に、本心でそう叫んでいる。


 だからサナは、

「…………うっざ」


 顔を歪ませて吐き捨て、()()()()()()()()()()()()をカランビットで指し示すようにして叫んだ。

「じゃあ後ろにあるそれは何なのよ!?」

 ”みこさま”は反射的にその方向を見る。

 だがその目に映るのは、ただの壁だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 困惑の表情を浮かべることしかできない”みこさま”にサナは苛立ちを隠しもせず、不機嫌さを隠しもしない荒い足音を立てながらその背後に向けて歩いていく。

 その目には、確かに扉が見えていた。


 闇に溶け込むようにひっそりとしているが重厚な存在感を放つ、巨大な観音開きの扉が。


「ほら! こんなでっかい扉が見えないと思った!?」

「……と、扉? 扉ってなに?」

 ”みこさま”の戸惑いは増すばかりで、この異常事態に思考が全く追い付いていない。

 それが癪に障ったサナは、苛立たし気に扉に向けて腕を振り上げる。

「だから──ここにあるって言ってんでしょ!」

 そしてカランビットのフィンガーリングを叩き付けるように振り下ろした。

 

 サナの予想では、扉は鈍い音を立ててカランビットを弾き返してくるはずだった。

 だから今度は──サナが驚く番だった。

 

 フィンガーリングがすっと扉をすり抜けた──サナがそう錯覚するほど、観音開きの重厚な扉はまるで機械仕掛けのハリボテのように軽く、音も立てずにスムーズに奥へと開いた。

「……はぁっ?」

「えっ、うそ……」

 この状況になって、”みこさま”もその扉を認識できるようになった。

 予めサナが存在を口にしていなければ、ただの壁がいきなり扉に変化したように考えたかもしれない。

 そうして開き切った扉の向こうには──また、奥へと続く通路が隠されていた。


 サナも”みこさま”も、状況を理解できずに黙り込む。

 そして、その沈黙を破ったのは──その通路へと向けて歩き出したサナだった。

「やっぱなにかあんじゃん。お金? それともヤク?」

 先ほどまでと打って変わって好奇心に目を輝かせるアイは、カランビットを用心深く構えながらも無遠慮に通路へと進んでいく。

「……っ、ま、待って──!」

 まだ状況を呑み込めていない”みこさま”も、サナの背中を追いかける形でその通路へと向かう。

 

 ◆◆◆

 

 その通路は、石灯籠のような照明も無いのに不思議と仄かに明るかった。


 そして最初は扉と同じくらいに広大な空間となっていたが先細りのようにだんだんと狭くなっていき、そして最終的にはサナと”みこさま”が楽に通れるくらいの広さで落ち着いた。

 既に二人が歩いてきた距離は、ちょっとした山くらいは通り抜けられそうなほどだ。

 警戒するサナの足取りは少し鈍り、置いて行かれまいとする子どものように”みこさま”がすぐに追いついた。

 しばらくはサナの背後を歩いていた”みこさま”だったが、様子を伺いながらもいつの間にか横に並ぶような形になっていた。サナもそんな”みこさま”をチラリと一瞥したがすぐ前に向き直り、特に注意するようなこともしない。


 村を滅ぼした殺し屋と、村を護ってきた神様。


 奇妙な組み合わせの二人は、これまでの遺恨ではなくこの先に隠されているであろう何かの捜索を優先することで一致していた。

 そして、変わり映えしなかった通路に分かりやすい変化が現れる。

 狭く低くなりながらも大人が普通に歩ける程度に整っていた通路が、急に頭一つ分ほど低くなった。

 不注意な大人だったら頭をぶつけていたかもしれないが”みこさま”は言わずもがな、成人にしては背が低いサナも特に姿勢を変えることなくそのまま歩き続け──

 

 

 

 そうして、二人は辿り着いた。

 

 神の待つ間へと。


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