第八十話~海竜討伐~
アクア城で女王マリンから海竜の情報を得たカイト達は、フライ(飛行)で海竜が現れたとされる海域に到着し、カーミラのメイルストローム(大渦)で海竜を海中からあぶり出そうとしていた。
カーミラの発生させた大渦の様子をしばらく見ていると、渦の中から海竜の呻き声が聞こえてきた。
「ようやく出てきたようね。このまま溺死させても良いのだろうけど、それだと面白くないわね。ちょっと遊んであげようかしら。」
カーミラが指をパチンと鳴らすと大渦は最初から何も無かったかのように消え去り、穏やかな海に戻った。
カイト達はそのまましばらく静観していると、海中から巨大な影が徐々に海面に向かって上昇してきた。
「ギャオー!」
そしてその影はそのまま海上に姿を現した。
その姿は全身が青く、マリンの話に聞いた鋭い牙を持つ蛇のような巨大な怪物だった。
これが海竜で間違いないだろう。
海竜は自分を溺れさせた張本人であるカーミラの方を向き、口を大きく開けて、時折ギャオー、シャ―などと鳴いて威嚇しながら睨み付けている。
海竜はまさか自分が溺れるなどとは思ってもいなかっただろう。
渦潮は、人間は勿論、時として海竜のような巨大生物の命でさえも簡単に奪ってしまう。
渦潮には破壊的な吸引力があり、少しでも近寄ろうとすれば想像を絶する力でたちまち飲み込まれてしまう。
渦の力に抗おうとしても人間はおろか、海竜でさえも抵抗できず、渦の力で全身が圧迫され、骨が軋み、呼吸が乱れ、暗闇にどんどん引きずり込まれていく。
このような体の自由が効かない状態では、水中で生きている生物も呼吸が出来なくなり、意識も次第に遠のいていくだろう。
そしてエネルギーが最も大きい渦の中心に到達した時、猛烈な水流と圧力によってダメージは内臓にまで達する。
もうこの状態になってしまったら抵抗する気力すら失っているだろう。
そして最後は冷たく暗い絶望の闇の中で静かに命が消えていくのである。
カーミラはこの結末を知っていて、これでは面白くないと言い、渦を止めたのである。
「あら、よかった、まだ元気そうね。体がボロボロになっていてもう戦う力も残されていなかったらどうしようかと思っていたけど安心したわ。
さぁ、あなたを苦しめた相手は目の前にいるわよ。かかってきなさい。」
「ギャオー!」
カーミラが挑発すると海竜は猛烈な勢いで海面から飛び上がってカーミラに迫り、口を大きく開けて丸呑みにしようとする。
「甘いわ。テレポーテーション(瞬間移動)。」
カーミラは冷静にテレポーテーションで攻撃をかわして海竜の頭上に瞬間移動する。
海竜はバクンと口を閉じるが、カーミラを捕らえる事が出来ずに頭から海面に落下する。
海竜の攻撃は不発に終わり、体制を立て直すために海中で長い体をうねうねと動かして再び海面に姿を現すが、カーミラの姿を見失っているようだ。
「あら、私の姿を見失ってしまったようね。ほらほら、こっち、上よ、これじゃあ届かないかしら?」
海竜は頭上のカーミラに向かって咆哮し、再び海に潜る。
全身をぐんぐんと垂直に潜らせて、十分深いところまで潜ったところで再び上昇を始める。
海竜の影はみるみるうちに大きくなり、物凄い勢いでカーミラに向かって行く。
「まったく、かぶりつくしか脳がないのかしら。それは通用しないって分からないのかしら。テレポーテーション。」
カーミラはワンパターンな攻撃にワンパターンな防御で対処する。
それでも海竜はカーミラにかぶりつこうとしたり、尻尾を振って叩き落そうとしたりして何とか攻撃を当てようとするもいとも簡単に回避されてしまう。
そんな攻防がしばらく続いた所で戦闘は一旦小康状態になった。
「さっきから必死に食らいついてきているけど、攻撃さえ当たればどうにかなるとでも思っているのかしら?まったくおめでたい脳ミソをしているわね。だったらその頭に叩き込んであげましょうか?何をしても、どう足掻いても、私には勝つ事が出来ないって事を。」
すると、カーミラはゆっくりと海竜の方へ進み、目の前の所で静止した。
「さぁ、私はここから動かないであげるから思いっ切り攻撃してみなさい。」
カーミラの挑発に海竜は再び咆哮し、大きな口を目一杯開けてカーミラに襲い掛かる。
「アタックシールド(物理障壁)。」
カーミラは球体状の物理障壁を発動させ、身を守る。
カーミラに向けられていた海竜の鋭い牙はカーミラに届く前にシールドに衝突する。
海竜は噛み砕こうとして必死に力を入れる。
するとシールドがミシミシと音を立て始め、ピキピキと亀裂が生じる。
「あら、思っていたよりやるじゃない?そうよ、その意気よ、頑張りなさい。」
カーミラはシールドが破壊されそうになっても余裕の表情を崩さない。
だがやがて亀裂はシールド全体に広がり、とうとうパリンと割れてしまったのだ。
海竜はもらったと言わんばかりにそのままカーミラを飲み込もうとする。
「はい、出来ました。」
シールドは破壊されてしまったが、だからと言ってカーミラは何をする訳でもなく、ただ成り行きに身を任せている。
そんな事をしている内にカーミラは飲み込まれてしまい、海竜はカーミラを飲み込んだまま海中へと潜ってしまった。
「カ、カーミラ!大丈夫ッスか!?」
「落ち着くのだ、ボアードよ。カーミラなら心配いらない。あの余裕の表情を見ていただろう?」
「そうッスけど、、、このまま出て来なかったら。。。」
「カーミラがここは任せろと言ったのだ。そう簡単にやられたりする事はないだろう。とは言っても私も心配していないわけではない。コロンよ、ここからカーミラの生命反応は感知出来るか?」
カイトがコロンに確認すると、コロンはセンサーを起動させ、周囲の生命反応を確かめる。
「はい、カイト様。カーミラの生命反応は確認できました。それと海竜も。両方とも今は水深約二千メートルの所にいます。生命反応レベルも戦う前と変わっていないので、特にダメージを負ったりしている状況ではないかと思います。」
「そうか、ありがとう。ボアードよ、これで安心しただろう?」
「はいッス。ちょっとカーミラの力を疑ってしまったッス。カイト様この事はカーミラには言わないで欲しいッス。」
「そうか?仲間の事を心配るのは決して悪い事ではないと思うのだがな。まぁ、お前がそう言うなら黙っておこう。」
「ありがとうございますッス。まったくカーミラはこっちの心配も知らずに紛らわしい真似をして困った奴ッス。」
「誰が紛らわしい真似をだって?」
カイト達が会話していると、それに口を挟むかのように海中から恐ろしい声が聞こえてくる。
すると次の瞬間、海面からもがき苦しむような叫び声と共に海竜が飛び出して来た。
そして飛び出してきたかと思えば口からポンッっとカーミラを吐き出したのであった。
カーミラは再びシールドを張って身を守っていたのであった。
「なんで聞こえているッスか。なんて地獄耳なんスか。」
「カーミラよ、よくぞ戻って来た。飲み込まれたようだが、体の方は無事か?」
「はい、飲み込まれた瞬間に再びシールド張りましたので問題ありませんもっと深く潜られたら気圧の変化で危なかったかもしれませんが、体内から蹴ったり殴ったりしたらこの通り、海面に浮上して吐き出してくれました。」
「そ、そうか。ではもう十分だろう。そろそろ決着を付けるのだ。」
「はい、承知いたしました。ではそろそろ終わらせていただきます。」
カーミラがトドメを刺そうとしていると、海竜は口を大きく開く。
「あら、まだ懲りていないのかしら?私を飲み込んでも無駄だったのが分からないのかしら?」
だが海竜の様子は先程とは違う。
海竜は口を開けたまま襲い掛かってくる訳でもなく、その場で静止している。
「あら、どうしたの?かかってこないなら私から行かせてもらうけど?」
すると、海竜の口元が青白く光り出す。海竜は最後の手段としてブレスを吐いてくるつもりらしい。
「あら、そういうのが出来るなら初めからそうして欲しかったわ。面白くなってきたわね。」
「ガォー!」
海竜はありったけのエネルギーをブレスに込めて吐き出す。
口元に集められた巨大なエネルギーの塊が青白いブレスとなって放たれる。
小さな山くらいなら軽く消し飛んでしまいそうな威力である。
これがアクアの街に放たれなかったのは幸いである。
「では、ヘルフレイム(業火)。」
カーミラは海竜の放ったブレスに向かってヘルフレイムを放つ。
海竜のブレスも申し分のない威力ではあったものの、カーミラの魔法の前では話にならなかった。
それは、海竜のブレスが小山を破壊するならば、カーミラの魔法は山々が連なる山脈を破壊すると言えるか次元が異なるものであった。
海竜のブレスはたちまちヘルフレイムに飲み込まれ、海竜は業火に焼き尽くされる。
魔法の衝突による激しい発光の後、カイト達の目の前には焼け焦げた海竜が息絶え、水面にプカプカと浮かんでいる光景が広がっていた。
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