第六話~ドワーフ国の王~
ボアードの働きもあり、俺達はドワーフ城へと足を運ぶ事となった。
城の外観は中世ヨーロッパを思い出させる堅牢で立派な出で立ちの石造りである。
しかし侵攻の影響か、所々崩れており、戦いの傷跡が残っている。
城の入口まで進んで行くと、二人のドワーフが立っていた。この城の門兵だろう。
背は小柄だが、ドワーフ特有のずっしりとした体格にふさふさの髭を生やしている。
一人は赤色の鎧や兜を纏っており、もう一人は青色で統一している。二人は双子のように似ているが、まさかドワーフはみんな姿が似ているのだろうか。すると赤い方が話しかけてきた。
「お前が先程そこのオークが言っていた主か?」
「ああ、そうだ、先程は私の下部が失礼したな。ちなみにオークの名前はボアードだ。こっちも私の下部のカーミラという。」
「そうか、王がお待ちだ。通って行け、今度は失礼の無いように頼むぞ。」
「ああ、承知した。では通させてもらう。」
一応、門兵にも話が通っていたようで良かった。入口を真っすぐに進むと、巨大で重厚な扉が見えてきた。恐らく王の間への扉だろう。前に立つと扉はゆっくりと開き始めた。
扉が開いて中を見ると、玉座には王が座していた。先程の門兵と背格好は似ているが、王の貫禄というか威厳を感じる。王装に身を包み、頭には立派な王冠を載せている。髭はもちろんふっさふさだ。王の近くには大臣、周りには数名の側近達がいた。
「失礼する。私は魔王国の四天王の一人カイトと申す。先程は私の下部が無礼をした。詫びさせて欲し
い。」
「うむ、私はドワーフ国の王ドワンである。先程はまた聖大陸軍の侵攻かと思い焦ったがまぁよい。ところで我が国へはどのような要件で来たのじゃ?」
「実は今、聖大陸軍の侵攻が我が国や大陸全土へと迫ってきている。そのため、このドワーフ国を聖大陸軍から奪還し、形勢を整えたいと考えて視察に来たのだ。しかし、いざ来てみたものの敵の気配が無かった。この状況について説明してもらえるか?」
すると王は手の平を返したように態度が下手になった。
「おぉ、そうか、そうか。我が国に救いの手を差し伸べていただけるとはありがたいですじゃ。」
王の近くにいた大臣らしき者もすかさず会話に入ってくる。
「これはありがたい事ですな、王様。救いに来てくださったとおっしゃるならこの者たちにタバン炭鉱の魔物討伐を任せてみるのはどうでしょう?」
「ふむ、そうじゃな。その前にこの国の状況を説明しよう。」
ドワンの話によると、ある時ドワーフ国は聖大陸軍の侵攻を受け、必死に抵抗したものの、相手の兵力に圧倒され侵略を許してしまったそうだ。
その結果、王は民の命を優先し、ドワーフ国の降伏を宣言した。
その後、聖大陸軍は国の財を奪って、ドワーフ国の資源であるタバン炭鉱にミスリルリザードを放ち、去って行ったとの事だった。
そのため今は聖大陸軍の姿は無いが、炭鉱に棲みつくミスリルリザードのせいで武器や様々な金属の生成に必要な資源も採掘できなくなっているという。
「なるほど、状況は理解した。それでそのトカゲはそんなに強いのか?」
「ト、トカゲとは!えぇ、まぁとても凶暴な魔物でして、私どもではまったく歯が立ちませんでした。」
「そうか、では我々が討伐して見せよう。」
「な、なんと、よろしいのですか!?いくらあなた方でも無事に帰れる保証はございませんぞ?」
「あぁ、問題ない。すぐに片付けて見せよう。」
「なんと頼もしい。では、魔物討伐を任せるとしよう。バドラスよ、お三方をタバン炭鉱へ案内するのだ。それとその前にドバンを呼んで来い。」
「はい、只今呼んで参ります。お三方はしばらくここでお待ちください。」
王の傍に仕えていたバドラスと呼ばれた男は、ドバンとやらを呼びに出て行った。
一体誰を呼び出すつもりなのだろうか。
「ドバンって誰ッスか~?」
こういう時にこいつの真っ直ぐな性格は役に立つ。
「うむ、ドバンは私の息子でこの国の騎士団長を務めている。この国では一番の実力を持つ戦士だ。ドバンも加勢させてもらおうと思ってじゃな。」
「ふ~ん、そうなんスね~。我々だけでも余裕ッスよ!」
「確かに足手まといが増えても仕方ありませんよね、カイト様?」
「うん?あ~、まあせっかく呼んで来てくれるのだから待とうではないか。」
確かに足手まといが来ても困るし、この問題児二人を見ながらフォローするのは骨が折れそうだ。とりあえず会ってみて弱そうだったら連れて行くのは断らせてもらうか。
「お待たせしました、ドバンを連れてまいりました。」
「親父、これはどういう状況だ?」
片手に巨大な斧を軽々と持ち、金色の鎧兜に赤いマントを羽織った男がやって来た。間違いない。こいつがこの国最強の戦士であろう。
他のドワーフとは比べ物にならない体つきをしている。力だけならボアードと良い勝負かもしれない。
人間目線だと中年のおじさんくらいに見えるが、ドワーフは人間より寿命が長い。
今がちょうど全盛期なのであろう。こいつがいても聖大陸軍には成す術が無かったのか。
「ドバンよ、この者らと一緒に炭鉱の魔物討伐に行くのだ。」
「へっ、そういう事かよ、わかった、わかった。」
ドワーフは頑固な性格というイメージだが案外聞き分けが良いな。
なんだか台本があるかのようにトントンと話が進んでいく。まぁそれはそれで助かるのだけど。
役者が揃ったところで、バドラスに連れられて炭鉱へと向かった。
城を出てからしばらく後を付いて行くと、町外れにある巨大な炭鉱に着いた。
そこには広大大地が広がっており、地面が巨大な逆三角形状に掘られている。
その最深部には入口のような穴が開いている。恐らくあれが炭鉱の入口であろう。
「ここが我が国の炭鉱である。魔物はここの最深部にいるはずだ。気を付けて行ってくるがよい。」
「バドラスよ、ドバンがいるにも関わらず、丁寧に道案内してくれて感謝する。」
「いや、礼には及ばん。では私はこれで。」
「あぁ、ではまたな。」
「よっしゃ、早速行くッスよ~!」
「ボアードよ待て、先程の私の言葉を忘れたか?ここからはドバンに案内してもらう必要がある。」
「はっ、すみません、ついワクワクしてしまったッス。」
やれやれ、毎回このパターンか、っでこの後カーミラがブチ切れるんだよな。
「さあカイト様、気を付けて参りましょう。」
まさかのスルー。それはそれでボアードが可哀そうな。
「中は入り組んでいるから迷子にならないようにな。」
「ん?お前が道案内してくれれば問題ないのではないか?それとも方向に自信がないのか?」
良く見ると前方にドバンの姿が見えない。
後ろを振り返ってみると、奴は洞窟の入り口で突っ立っていた。
「ドバン、どうしたっス?忘れ物ッスか~?」
「お前らとはここでお別れだ!インパクトアックス(斧撃)!」
ドバンは大きな斧を振りかぶり地面に叩きつける。地面は大きく揺れ、炭鉱の入り口が崩れ、塞がっていく。そこへすかさずバドラスが魔法を唱える。
「マナリストリクション(マナ制限)!」
魔法詠唱とともに崩れた洞窟の入り口に六芒星の結界が張られる。外からは完全に閉じ込められ、マナの制限魔法が洞窟内に発動したようだ。
どうやらこれはハメられたらしい。確かに王と会ってからここまでの流れは不自然な程にスムーズに進んだ。
こちらの目的が分かってからの王の手の平返しやドバンの聞き分けの良さも思い返せば不自然である。
油断したな、さてこれからどうするか。入口をぶち破ってやっても良いのだが、それでは面白くないし、魔物の討伐も果たせていないままだ。
ここはあいつらの罠にはまったフリをしてサクッと魔物を倒して一泡吹かせてやるか。
それにしてもなぜ助けてやろうとしているのにわざわざこんな事を?まぁそれも出てから聞き出してやるとするか。
「カイト様、この状況どうしますか?やはりあの小人共に一度お灸をすえた方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうッスよ~、なんかマナの制限魔法をかけたみたいッスけど、自分の力があればあんな岩すぐにぶち破りますッスよ!」
「いや、今外に戻って奴等に問うても急に洞窟が崩落した、聖大陸軍の仕業だ、などと誤魔化されるかもしれん。であれば、ここは奴等の罠にハマったフリをしてトカゲを倒し、ドワーフ国の危機を救ってからゆっくり話を聞こうではないか。」
「そうですね、カイト様。なんと心の広いお方でしょう。感服いたしました。」
「それ、なんか格好良いッスね!そうしましょうッス!」
「うむ、では行くとするか。」
こうして奴等の罠にハメられたフリをして俺達は炭鉱の奥へと進んでいくのであった。
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