第五話~ドワーフ国~
部屋に戻るとボアードとカーミラが出迎えてくれた。先程と同様、例によって二人とも俺の存在に気付くと跪いて見せた。
敬意を払ってくれているのはありがたい。だが、まるで社長が入って来た途端、社員全員が起立して「おはようございます!」と軍隊のように挨拶していた社会人の頃を思い出せる。
当然社長の経験はないので、挨拶される側の気持ちは分からなかったのだが、いざされてみると小っ恥ずかしいものである。
まぁあの時はやらされていたし、それに比べてこっちは自主的にやっているようだし。
気にしなくてもいいか。
「カイト様、おかえりなさいッス!」
「カイト様、お疲れ様でございました。こちらの準備は整いました。いつでも出立可能です。」
「うむ、二人とも出迎えご苦労。私の用事は片付いた。それでは早速ドワーフ国へ向かうとしよう。」
「はい、ではゲート(転移門)を展開します。」
カーミラは先程のグリーテンと同様にゲートを三人の前に展開する。
空間の移動手段は魔王の間にあったような特殊な魔法陣を使ってテレポートしたり、ゲートの魔法を使ったりとあるがそこまで大差はない。
魔法陣のテレポートは目的地に設置してある魔法陣に移動するため毎回同じ場所に移動出来るが、予め目的地に魔法陣を展開させる必要がある。
対して、ゲートは魔法陣を展開させる必要はないが、術者のイメージが目的地に反映されるので、実力が乏しいと少し場所がずれていたり、思いもよらない場所に移動していたりすることがある。
といったところだ。
従って、これらの条件からゲートは術者が訪れたことのない場所には行くことが出来ないのが原則である。
俺達はゲートを通ると一瞬で移動し、通過した時にはドワーフ国国境付近に転移していた。
ドワーフ国は要塞のような立派な城を構え、城に隣接する炭鉱から鉱物を採掘し、武器や防具、装飾品や生活用品に至るまであらゆる物を製造し他国と取引をする事を生業としている。
中でも武器や防具、金属の生成に関しては他国では追いつかない技術力を持っている。
しかし、侵攻が始まって以降ドワーフ国が生産を中止したため、各国は魔王国も含め取引が出来ない状況になっていた。
「着いたな。それでは行くとするか。」
俺達は周りに警戒しながらドワーフ国の入口に近づいていく。しかし、何やら様子がおかしい。
侵攻を受け、入口の防壁、城下町、城壁などに損傷が見られるのは予想していた通りだったが、聖大陸軍の姿が見えない。
どういう事なのか。
「カイト様、なんか様子がおかしいッスね~。自分が様子を見て来ますッス!」
「お、おい、ちょっと~!」
ボアードはあっという間に入口を突っ切り、城下町へと駆けて行ってしまった。
まさに猪突猛進である。あいつの辞書に「慎重」という文字は無さそうだ。
まぁ、もし中に敵がいればあいつに引き付けてもらって、その間にこちらはゆっくり周囲の状況を確認すればいいか。
「カイト様。ボアードのバカが中にいるかもしれない敵の注意を引きつけている間に我々は慎重に周りの状況を確認しましょう。」
うん。ここに同じ考えの者が居て良かった。相変わらずボアードへの扱いが酷いけど、今はそれが最善だろう。いつも冷静沈着で助かる。
「そうだな。周囲を警戒しつつ進むぞ。」
「はい!」
二人は周囲を警戒しつつ歩を進める。住居や施設など損傷している箇所は見受けられるのだが、敵の気配は全く感じない。
既に撤退したのだろうか。しかし、撤退したら監視の目が無くなる。外に出歩いている者は見当たらないが、家の中には小さな人影が見える。恐らくドワーフ族であろう。
警戒しながらこちらの様子を見ているが、目が合うとカーテンをサッと閉めてしまう。困ったな、敵ではないのだがこちらを警戒しているようだ。
「カイト様、困りましたね。今のところ敵の気配はありませんが、住民との対話は難しそうです。まるで我々が敵のように見られて腹が立ちます。あのボロ家から引っ張り出してきましょうか?」
えっ、急に何を言っちゃっているの、この子は!?
「いいや、待て、待つんだ!我々はそのような暴挙に出るつもりはない。確かに任務遂行の糸口を掴むためにはこの国の民から話を聞く必要がある。しかし、そのようなやり方では奪還が成功した後にこの国と友好的に関係を築くのが困難になるではないか。」
「しかし、お言葉ですが、友好的である必要があるのでしょうか?奪還後は我々がこの国を以前のように力でねじ伏せてしまえばよろしいのかと。」
「ふむ、その考え方もあるだろう。しかし、その結果何が起きた?聖大陸軍が侵攻し、団結力の無い魔大陸の国々はあっという間に侵攻を許してしまった。もし、魔大陸の各国が連携を強め、我が国が力による支配ではなく友好的な関係を築いていたらどうだ?国々は一致団結し、今回のような事態には陥らなかったと思わないか?確かにゼクス様から与えられた任務は領土の奪還である。しかし、奪還しただけでは以前の状態に戻るだけだ。ゼクス様のお考えは計り知れぬが、私はこの悲劇を再び繰り返す事のないようにしたいと願っている。そのためには、力で押し通すやり方ではならないのだよ。」
やばい、言い過ぎたかも。これでは部下からの反感を買ってしますのではないだろうか。
「はい!全くその通りかと存じます。カイト様のお考えに心を打たれました。私の無礼な態度をお許しください。これからもカイト様へ一生の忠義を尽くさせていただきます!」
「う、うむ。わかってくれてありがとう。私も少し言い過ぎてしまったようだ、すまない。だが、私がいつも正しいとは限らない。何か言いたい事があれば遠慮せず申すのだ。」
「なんと、もったいなきお言葉。カイト様に間違いなどあるはずございませんが、心に留めておきます。」
「よし、それでは行くとするか。」
「はい!」
とりあえず丸く収まったのだろうか。冷静沈着だが、冷静に残酷な事を言うから怖いものである。二人の性格は理解しつつも俺が上司としてコントロールしなくては。
それはそうとこれからどうしたものか。住民に話を聞くのは難しそうだし。ってか、ボアードの奴はどこに行ったんだ。まさか捕まっていたりしないよな。
そんな心配をしていると、ボアードが凄まじい勢いでこちらに戻って来た。
「カイト様!敵の気配はありませんでした!あと、住民に話を聞こうとしたんですけど、みんなビビッて家に閉じこもってしまったので、王様に会ってきました!」
ドワーフ族を警戒させてしまった犯人がここにいた。俺は怒りに任せて殴ってやろうかと思ったが、それでは先程カーミラに説いた教えに反してしまう。
ここは寛大な心で部下の頑張りを誉めてあげなくては。
「お前が犯人か!死ね、ブタ野郎!ライトニングサンダー(雷轟)!」
俺が心を落ち着かせている矢先、カーミラが怒号交じりの魔法を唱える。すると、ボワードの頭上に凄まじい雷轟が降り注いだ。感情を抑えきれないようだったが、カーミラの怒りは最もである。
俺も怒りを抑えるのがやっとだったのだから。
ボワードは黒焦げになり、感電しているようだ。死んだか?
「カーミラ、痛いッスよ~、何をするッス。」
「うるさいブタが!もう一度丸焼きにしてやろうか!?」
しかし、驚くことにボワードはピンピンしている。更に、焼け爛れた真っ黒な体はみるみるうちに修復されていく。
オーク特有の自己修復能力であろう。あれ程の攻撃にも関わらず即座に回復して見せた。カーミラの魔法も見事なものであったが、ボアードの回復力には驚かされた。
二人とも頼もしい限りであるが、俺より強いってことはないよね?って、感心している場合ではない。この場を収めなくては。やれやれ、先が思いやられる。
「二人とも静まれ!ボアードよ、お前の軽率な行動により住民への対話が困難になった。今後このように先走る事がないように。」
「そうよ、ボワード、カイト様のおっしゃる通りだわ。」
「それに、カーミラよ。お前の気持ちは分かる。しかし、感情を力で押し通してしまう事は先程の私の考えに反すると思わんか?周りを見てみるのだ。住民が震え上がって更に事態が悪化したと思わんか?」
周りを見渡すと、先程まで家の中からこちらの様子を伺っていた住民は完全に塞ぎ込んでしまっている。
「はい。おっしゃる通りでございます。申し訳ございません。」
「カイト様、すみませんでした。自分も反省するッス。」
「ふむ、分かってくれたなのならそれで良い。次は頼むぞ。ところでボワードよ、王に会って来たと言ったが本当か?」
「はい、勢いで突っ走っていたら、王の間に着きまして、そこで王様に我が主が会いに来たと伝えたら、通して構わないと言われたので戻ってきたッス!」
なんか力技だが、そうとなれば話が早い。無茶苦茶してくれたが結果オーライだ。ボワードにしては良くやったといったところか。
「そうか、でかしたぞ。それでは王に会って、事情を聞くとするか。」
「はいッス!」
こうして俺達は王が待つ城へ行くのであった。
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