第四話~模擬戦~
どういう事か、話の流れで俺と魔王とグリーテンの三人は魔王城の訓練場にやってきた。
ゲート(転移門)を使って来たため、今どのあたりにいるのかよく分かっていないが、訓練場は魔王城の地下に位置しているらしい。
地下と言っても訓練をするために十分なスペースが確保されており、天井も非常に高く耐久もばっちりとの事だ。
中央は開けていて、そこで戦闘の訓練をする。
訓練場なのに周囲には観客席まで用意されている、さながら闘技場のような造りだ。
ここは訓練だけではなく、かつては闘技大会も催されていたらしい。
魔大陸中の強者を集め、実力のある者を魔王城にスカウトしていたとか。
そんな背景もあり、今では魔王城には多種多様な種族がいる。
しかし、今は聖大陸軍の侵攻により闘技大会は勿論、訓練をする機会も減っているのだとか。
「さあ、早速始めようではないか!カイト、私と手合わせしてみないかね?」
う~む、最初は魔王かグリーテンの実力を客観的に見たいと思っていたのだが、やはりそうはいかないか。
仕方ない、ここは受けるしかないか。
ってか、殺されちゃったりしないよね。
「どうした、そんな心配そうな顔をして。心配するな、これは模擬戦だ。私は手加減をするし、お前は全力で来てくれて構わない。万が一重傷を負ってもグリーテンが治してくれる。」
「はい、その言葉を聞いて安心しました。では胸を借りるつもりで挑ませていただきます。」
「頑張ってカイト!いざとなったら僕が治してあげるからね!」
「ああ、すまない、その時は手遅れになる前によろしく頼むよ。」
どうやら殺される心配はなさそうで安心した。
俺と魔王はお互いに距離を取り、向かい合う。
グリーテンは二人とは少し離れた所で戦況を見つめる。
果たして俺の力はどれ程のものなのか。
そして魔王の力量も気になる。
手加減とか言っているくらいだから俺一人ぐらいはどうってことないのだろう。
少し腹が立つが仕方ない。出来る限りやってみるか。
「グリーテン、開始の合図を頼む。」
「かしこまりました!それでは、始め!」
グリーテンの合図で模擬戦が始まった。
魔王は始まっても動かずこちらがどう出るか様子を見ているようだ。
強者の余裕というやつか。
仕方ない、こちらから仕掛けるか。
魔法の使い方についてはさっきグリーテンの部屋にある魔導書を読み、大体は理解した。
基本的にはまず使いたい魔法を頭の中でイメージし、そのイメージをマナに込める。
そしてそのマナを放出する。
すると魔法として発動されるのだ。
一つ一つ手順を確認すると時間がかかるように思えるが、慣れれば一瞬で魔法を発動出来るようになる。
強力な魔法や複雑な魔法はイメージを練るのに時間がかかったり、マナのコントロールが難しかったりするが、単純な魔法はほぼ一瞬で発動できる。
まだこの世界にきてから魔法を発動させていないが、不思議と俺の持つマナの量や魔法の発動イメージは感覚的に分かる。
あとは経験していけばどうにかなるだろう。
ということで早速発動してみる。
「ヘルフレイム(業火)!」
炎々と燃え盛る炎が魔王に直撃し、魔王を飲み込む。
炎は魔王を飲み込んだ後も燃え続け、我ながら自分の発動した魔法の威力に驚愕していた。
これ程までの威力の魔法が発動できるとは思わなかった。
魔王は大丈夫か。
これで殺してしまったら俺が魔王か?
まあこれで死ぬ事はないだろうけど。
「どうした、この程度か?」
炎の球の中から魔王の声がする。
すると魔王はゆっくりと歩を進め中から出てきた。
やはりほぼ無傷のようだ。
この様子だと他の魔法を発動しても効果はなさそうだ。
しかし俺は魔法の扱いを練習するつもりでその後も魔法を放ち続けた。
マナが尽きかけるまで放ったが、やはり魔王は涼しい顔をしている。
たまに防御魔法を展開して守る事はあったが、少し苦手な属性だったのか、気まぐれで使ってみたのか、どちらにせよ魔王にとっては大した違いはなさそうだった。
もう万策尽きたが、どうするか。
そういえば聖属性の魔法はまだ発動させていなかったな。
どうせ効きはしないだろうけど最後の足掻きでやってみるか。
「ホーリースラッシュ(聖なる刃)!」
白い巨大な刃が魔王に向かって飛んでいく。
見た目は派手だが派手な魔法はさっきから何度も放ってきた。
魔王とは根本から強さの次元が違うのである。
こんな魔法どうせノーダメージか防御されるかでもされて、掻き消されるに違いない。
そう思っていたが、魔王の反応は異なるものだった。
「なに!?くそっ、ブラックホール(黒穴)!」
魔王は急に慌てた様子で初めてまともな魔法を発動させた。
魔王は片手を前に突き出すと黒い穴を出現させた。
その穴は渦のようにうごめいている。
そう、まさにブラックホールだ。
ブラックホールの影響で訓練場は大きく揺れる。
下手したら周りの観客席が吹き飛びそうな勢いだ。
グリーテンも慌てて自身に防御魔法を展開させている。
俺も防御魔法を展開し、あの渦に吸い込まれないように立っているのがやっとだった。
俺の放ったホーリースラッシュは渦に引き寄せられ吸い込まれてしまい、しばらくするとブラックホールも収まった。
なんて無茶苦茶な魔法だ。
こんな魔法を使われたら聖大陸軍もお手上げじゃないのか。
魔大陸軍が劣勢なのが不思議なくらいである。
それほど聖大陸軍の戦力はケタ違いなのだろうか。
それにしても俺が今まで放った魔法の時と明らかに反応が違った。
何故だ。
「カイト、貴様、その魔法をどこで覚えた?聖属性魔法は聖大陸の者にしか扱えぬ。魔大陸の者にとっ
ては脅威となる魔法だぞ。」
やばい、そうだったのか、だからあんなに驚いていたのか!?
まずい、殺される。
「そうだよ、カイト!いくら記憶が無いからってそれは無茶苦茶すぎるよ!」
ばっ、バカ、話をややこしくするな!
「何?それはどういうことだ?」
ええい、仕方ない。
「ゼクス様、実は私、原因は不明なのですが、少し記憶が飛んでしまっておりまして。そのため、先程グリーテンから魔法の事などについていろいろと話を聞いておりました。
聖属性魔法が発動出来たことについは今回の記憶喪失が関係しているのかもしれませんが、原因は分かりかねます。
しかし、私はカイト本人であり、それはグリーテンの魔法でもステータスを確認しております。誓ってゼクス様を裏切るような行為はしませんし、今後も忠義を尽くさせていただく所存です。」
「ほう、そうなのかグリーテン?」
「はい、カイトが本人であることは僕の魔法で確認したので間違いありません。記憶喪失もカイトの話や様子を見る限り嘘ではないかと。」
「そうか、グリーテンがそう言うのであれば今のお前の状況を信じよう。」
「はっ、ありがとうございます。今後もゼクス様、魔大陸奪還のため全力を尽くさせていただきます。」
ふ~、何とかなった。
っていうか、グリーテンはどれだけ信頼されているんだよ。
グリーテンがいなかったら物語序盤で死んでいたぞ。
「よろしい。では模擬戦はこれで終わりだ。二人は元の任務に戻り励むように。そしてカイトよ、お前は領土奪還のため各地を周りながら今回の記憶喪失、聖属性魔法の原因を探るのだ。」
「はっ、仰せのままに。」
まぁ、記憶喪失は嘘なんだけどなぁ。けど聖属性魔法については追究する必要がありそうだ。
「はい、僕も頑張ります!」
魔王はゲートを展開し暗闇の中へ去って行った。
「お疲れ様!よかったね、無事に終わって!」
「お前が話をややこしくしなければもうちょっと楽だったけどな。けどまあ、助かったよ。」
「じゃあ僕は行くね!また会おうね!」
グリーテンもゲートを展開し、去って行った。
とりあえず今回は実戦的な部分でとても良い経験になった。
魔王の力は計り知れない程だったが、自分の実力は何となく分かった。
グリーテンの実力も大体は想像出来る。
魔大陸の他国の力がどれ程のものかはその国に行ってみないと分からないが、魔王国が大陸を支配している以上、それ程ではないだろう。
問題は聖大陸軍の武力である。
脅威に成り得る聖属性の魔法もあるし、聖大陸軍と対峙する時には細心の注意が必要だろう。
まずはドワーフ国に行って様子を見みるとするか。
二人はゲートでさっさと帰ってしまったが、俺もさっき見て覚えたゲートの魔法を発動し、ボアードとカーミラの待つ自分の部屋へと戻っていった。
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