第三十一話~追放~
あのゴブリンの襲撃以降、ボアードは約束通り奥地へ足を踏み入れる事はせず、近隣の森で仲間達のためにせっせと働いていた。
そしてボアードの強くなりたいという気持ちを知ったボルドの粋な計らいで、魔物との戦闘が出来ない代わりにボルドが稽古をつける事になった。
そんなボルドとの稽古は低レベルの魔物との戦闘とは比べ物にはならない程ハードでボアードにとってとても良い経験になっていた。
ボアードは潜在的な身体能力は他の者より優れていたが、今まではその生まれ持った才能に任せて戦っており技術の習得を疎かにしていた。
それでも今まで自分より格上の相手とは対峙した事がなかったため苦戦を強いられる事はなかったが、格上のボルドとの稽古でその欠点が浮き彫りになった。
「ボアードよ、お前は打たれ強さや単純な力だけ見れば他の仲間達よりも優れている。これからもその強みを伸ばしてお前だけの武器にすると良いだろう。しかしそれだけではこの先今回のゴブリンキング以上の強敵に出くわした時には苦戦を強いられるのは目に見えている。お前が更なる高みに到達するためには自分よりも強い相手と対峙した時でも生き延びるか、あわよくば勝利するため戦闘技術を身に付ける必要がある。その技術を私との稽古で磨いていくのだ。」
「はいッス!師匠!このボアードこれからも精進しますッス!」
こうしてボアードは毎日毎日ボルド直々に手ほどきを受けたお陰でめきめきと実力を付けていき、稽古の場ではあるものの、遂にはボルドとまともに剣を打ち合えるようになるまでに成長した。
「ボアード、よくぞここまで短期間の間に成長したな。正直ここまでお前が強くなれるとは思っていなかったぞ。これは族長の座を奪われるのも時間の問題だな。はっはっは。」
「いや、まだまだ自分は族長の足元にも及ばないッス。知っているッスよ、族長はまだ本気を出していないって事を!」
「そんな事はないぞ、私はいつでも全力だ!はっはっはっ!」
「くそ~、バカにしているッスね!いつか族長を超えて見せるッスよ!」
「ほう、それは楽しみだ、首を長くして待つとしよう!」
ボアードとボルドは稽古を重ねるうちに打ち解け合い、いつの間にか良き師弟関係になっていた。そんな充実した日々がいつまでも続くかと思われたが、その時は突然訪れた。
ある日の昼下がり、ボアードはいつも通り一人近隣の森で狩猟採集をしていた。
「今日も良い天気ッスね、さっさと仕事を終わらせて早く稽古をつけてもらうッス!」
張り切って森の中を探索していると、草むらの影からガサガサと物音がした。
「おっ、早速見つけたッスよ、今日の獲物は何スか~?」
すると草むらから飛び出てきたのはなんと一体のダークウルフであった。
「なっ、なんで魔物がこんな村の近くにいるッスか!?」
ダークウルフはボアードを見るや否や飛びついて来た。ボアードは不意を突かれたが冷静に動きを見極め正拳で殴り飛ばす。
ダークウルフは吹き飛んで近くの木に激突した。木の幹が陥没する程の想定外の一撃に悶絶したが、何とか立ち上がってみせた。ただ、ダークウルフはその一撃を受けただけで既に虫の息である。
そんなボロボロの状態でありながらもダークウルフは天を見上げ、そして最後の力を振り絞り咆哮する。
「しまったッス、仲間を呼ばれたッス。」
咆哮した直後、ダークウルフはその場に倒れ絶命したが、しばらくするとそれに答えるように森のあちらこちらからいくつもの鳴き声が響き渡った。一体何匹の仲間が来るのだろうか。
ボアードは臨戦態勢で周囲を警戒しながら敵の増援に備える。
しかし、いくら待っても増援がボアードの前に現れない。自分の想定していた展開にならず嫌な予感がする、そんな時だった。
村の方から鐘の音が聞こえて来た。なんと、ダークウルフの増援はボアードを無視して村を襲撃していたのであった。
ボアードを始め、出払っていたオーク達は次々と村に戻って来た。ダークウルフはゴブリンほどの知性を持たないが、戦闘能力はダークウルフの方が上だ。身体能力も高く、鋭い牙に噛みつかれたら軽傷では済まない。
ボアードが村に戻って来た頃には仲間達とダークウルフが激しく衝突していた。
緊急事態であるにも関わらず、ゴブリンの襲撃時と同様に族長であるボルドの姿はない。結局最後までボルドは姿を現さなかったが、ボアードと仲間達はダークウルフの殲滅に成功した。
戦いには勝利したものの、今回は流石のオーク達も無事では済まず、数名の犠牲者を出す結果となってしまった。
この前ゴブリンの襲撃があったばかりでもあり、皆ショックを隠せない。
それにしても何故近隣の森にダークウルフが出現したのか。ボアードも途方に暮れているとボルドが村に帰って来た。
「皆すまない、今戻った。こ、これは!?」
ボルドは犠牲になったオーク達を目にして驚きと動揺を隠せない様子だった。
「ま、まさか、ボアード、またお前なのか?」
ボルドの表情が鬼の形相に変わる。
今までボアードに優しく微笑みかけ接してくれていた笑顔はそこにはなかった。
「ち、違うッス、自分はいつものように近くの森を歩いていたらたまたまダークウルフを見かけたッス。そしたらいきなり襲い掛かって来たので応戦したら仲間を呼ばれて、その仲間達が村を襲ったみたいッス。自分のせいでこんな事になってしまったかもしれないッスけど、決して奥地には入っていないッス。」
「そうか、ボアード、お前の言いたい事は分かった。確かにそれが事実であれば今回の事は仕方がないのかもしれない。だがしかし、ボアード、お前には前科がある。可愛い弟子でもあるお前の言葉を信じてやりたいのは山々なのだが、今回ばかりは仲間達もお前の言葉だけでは納得しないだろう。この件についてはお前の身の潔白を証明するためにも調査させてもらう。一緒に付いて来い。」
ボルドはこみ上げた怒りを一旦鎮め、原因究明のため調査団を編成し、ボアードと一緒に森へと向かった。
ボアードは己の身の潔白を証明するため、ダークウルフと対峙した場所までボルド達を案内した。現場に着くとボアードは状況を説明する。
「ここッス、この茂みからダークウルフが出てきて戦闘になったッス。そしてここであいつは仲間を呼んで息絶えたッス。」
「ほう、そうか、それでその息絶えたダークウルフは一体どこにいるのだ?」
確かに辺りを見回しても先程仕留めたダークウルフの姿が見当たらない。
「あれっ!?おかしいッス!確かにここで倒したッスよ!自分が殴り飛ばしてあの木にぶつかって木はボロボロに、、、あれ?」
しかし、ボアードが指をした木を見ても衝突の痕跡が一切見当たらなかった。ダークウルフが衝突した衝撃で木の幹が陥没していた筈だったが傷一つ付いてない。
「ボアード、あの木がどうかしたのか?」
「あ、あれ、、、そんな。」
数時間前に自分が見ていた光景がまるで幻であったかのように現場の状況は異なっていた。ボアードの頭が混乱している中、森の奥を探索していた調査団の一人がボルドを呼ぶ。
「族長!奥地の方にダークウルフの死体と思われるものが見えます!」
「何?奥地だと!?よし、族長の名において調査の間は奥地への立ち入りを許可する。進め!」
ボルドの号令で一行は奥地へと足を踏み入れた。するとそこに広がっていた光景に衝撃を受ける。
一体の絶命したダークウルフとその近くには幹が陥没した木があった。
先程ボアードが自ら証言した状況がぴったりとあてはまってしまった。
この状況には本人が一番動揺している。
「そ、そんな筈はないッス、自分は確かにあの森で奴と戦った筈ッス!」
「ではこの状況はどのように説明するのだ?」
「それは、、、自分にも分からないッス。」
「そうか。調査はここまでだ。一旦村に戻るとしよう。」
ボアード達は村へ戻り仲間達を集め、調査の結果を報告した。
「調査の結果、このような事実が判明した。ボアードは無実を主張しているが、それを裏付ける根拠がない。従ってボアードには村の掟を二度も破り犠牲者を出した報いを受けてもらう。ボアードは只今をもって村から追放とする。直ちに荷物をまとめて村を出ていくのだ。今後一切、村への立ち入りを禁止する事とする。」
こうしてボアードは自らの身の潔白を証明する事が出来ないまま村を追放されてしまった。
最後はあれほど慕ってくれていた仲間達からは冷ややかな目で見られ、ボルドからも見放されてしまう事となった。
ボアードは今回の不可解な出来事と族長の決定に納得が出来なかったものの、己の力不足で真実を見抜くことが出来なかったと自分に言い聞かせ、無理矢理納得した。
もし自分にもっと知識や力があれば今回の一件を解明出来たのかもしれない。
もっといろいろな強さを身に付ける必要がある。
そう悟ったボアードは、一人村を離れ己の強さを追い求める旅に出た。
そしてカーミラと同様に強者が集う魔王国の闘技大会の噂を嗅ぎ付け、大会で結果を残し、カイトの配下になったのであった。
「そんな事があり、今に至るッス。」
「そうか、それは何だか腑に落ちないというか、残念だったな。」
「お前の頭が足りなかったからだと言いたいところだけど、今回は少し同情してしまいますね。それに何者かの陰謀も感じます。」
「カーミラもそう思うか?私もこれには何か裏があると思っている。」
「えっ、そうなんスか!?自分は誰かにはめられたって事ッスか!?」
「お前がこの程度だから相手も苦労しなかったのでしょうね。それにしてもこのブタを陥れる理由はなんだったのかしら?」
「そうだな、そこが気になるところだ。敵は何を目的にボアードを村から追放したかったのか。まぁそれも村に行ってみれば何か分かるかもしれん。とにかくまずは村に行ってみよう。ところで、ボアードは村から追放されている身だがこのまま村へ行っても大丈夫なのか?」
「流石にこの格好だとバレて村には入れてもらえなさそうッスね。村が近くなったらちょっと変装しますッス。」
「うむ、ではそのような手筈で頼む。」
こうしてボアードの生い立ちから追放されるまでの悲劇のストーリーを聞いたところで、三人は村の近くまで辿り着いたのであった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をお願いいたします。
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると執筆の励みになり本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




