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第二十三話~シュバインの計略~

「クックックックック、ハァッハッハッハッハー!やった、やったぞ!」


ケルビムが滅び去ったその時、王の間に嘲笑が響き渡る。今この部屋には俺達の他にはあと一人しかいない。そう、この声の主はシュバインである。


シュバインは俺達の影に隠れる形で跪き、頭の大きさ程あろうエメラルドブルーに輝くクリスタルを両手に乗せ、天に向かって掲げていた。


暫くするとクリスタルは役目を終えたかのように輝きを失い、粉々に砕け散った。


「やっと邪魔者がいなくなったな。これでこの国を暴力と恐怖で支配することが出来る。カイトよ、お前がこの国に来てくれて助かったよ。私一人ではあいつの隙を突く事が難しかったからな。」


「シュバイン、お前の仕業か?一体どういう事だ?」


「なぁに、私は最初からあいつの平和ボケした考えにはつくづくうんざりしていたのだ。そうしたらある時、この国を放棄して魔王軍に引き渡すと言い出した。流石の私もこれには我慢の限界だった。そこで私は上層部に密告したところ、奴をこの魔結晶で暗殺する事を命じられ、奴の隙を伺い、今しがた葬ってやったのだよ。」


「なんて冷酷な奴ッスか、考えられないッス。」


「ケルビムも出来の悪い部下を持ってしまったようね、同情するわ。」


「そうか、仲間割れは結構だが、シュバインよ、主を討った今、お前はどうするのだ?先程は手も足も出なかった相手が目の前にいるのだぞ?この状況で今から平和的な解決が出来るとは思えんが?」


「ふん、バカが、この私が何の考えも無く動くとでも思ったのか!?」


シュバインはケルビムが居た場所へと駆け出し、唯一残されていたスタッフを拾い上げる。


「ハッハッハ、あれ程の魔法を受けてもやはりこの杖は残ったか、計算通りだ。流石は宝杖エターナルスタッフ。改めて近くで見ると、この杖に込められたマナの強大さを実感できる。これならお前達でも滅ぼせるだろう。」


「ほう、それがお前の考えか、さぁどうする?またお得意の天使でも召喚して見せるのか?」


「私を見くびるな!リビングデッド(生きる屍)、ケルビム。」


シュバインが魔法を唱えると、エターナルスタッフの先が光を放ち部屋中を照らしだす。


すると、地面から先程殺された筈のケルビムが現れた。


先の攻撃で跡形も無くなったケルビムだったが、シュバインの魔法によって蘇ったようだ。肉体は本人そのもののように見え、堕天使の姿にされて殺されたが、今は最初の天使の姿に戻っている。

装備も先程と同じように見えるが、当の本人は無口で感情も無い人形のようだ。


すると、シュバインが蘇ったケルビムに命令する。


「ケルビムよ、あいつ等を殺してしまえ!」


シュバインの号令と共にケルビンは魔法を発動させた。


「ホーリージェイル(聖牢獄)。」


ケルビムは白い球体を三つこちらに向かって飛ばしてきた。ボアードは大剣で打ちは払おうとするも攻撃は貫通してしまい、白球に拘束されてしまう。


カーミラもすかさず防御魔法を展開するが、白球に破壊され捕まってしまう。

二人の攻撃、防御でも全く歯が立たない理由はただ一つ、聖属性魔法である。

相手の拘束魔法が聖属性だと判断した俺は聖属性の防御魔法で対抗する。


「ホーリーシールド(聖障壁)。」


ホーリーシールドは通常の防御魔法に比べた属性に対する耐久性は脆いが、聖属性の守りに特化している。白球は俺が発動したシールドに衝突すると、シールドと共に砕け散り相討ちとなった。


「くっ、カイト様、捕まってしまったッス。」


「カイト様、この私が不甲斐ないばかりに申し訳ございません。」


ボアードとカーミラは依然として拘束されたままである。あの二人がこうも簡単に無力化させられてしまうとは、ケルビムの実力もさることながら、聖属性魔法の効力もまた絶大である事を改めて痛感する。


「ボアード、カーミラよ、暫く耐えてくれ、すぐに終わらせる。その杖のお陰で少しはこちらと張り合えるようになったようだな。ケルビムとは手合わせが出来なくなってしまい少し残念だったのだが、こうも早く実現するとはな。シュバイン、お前には感謝せねばな。感謝のしるしとして、ケルビムを再び葬った後はお前を葬ってやる。覚悟しておけ。」


「何を減らず口を!殺れ!殺ってしまえ!」


シュバインの号令により再び、ケルビムが攻撃を再開する。

ケルビムがマナを込めた聖属性の魔弾を連発してくる。


「フライ(飛行)。」


先程は不意を突かれてしまったが、俺はフライの魔法で確実に回避し続ける。

一発一発は大した威力では無いが、聖属性の攻撃である以上、侮る事は出来ない。しかし、回避を続けている中でカイトはある事に気付く。


ケルビムの放つ魔弾の速度と威力が落ちているように感じたのだ。


そこで俺は仮説を立てた。


俺は魔弾の回避に集中していたため、ケルビムに注意を向けていたが、シュバインの方に目をやると何故か焦っているように見える。


ボアードとカーミラは拘束され、俺は魔弾の回避に専念するのが精一杯のこの状況を見れば誰だってシュバインが優勢であるように見える。


俺に決定打を浴びせられずにいるが、勝利を急ぐような状況ではないはずだ。


「マナサーチ(魔力探知)。」


ん、これは。ケルビムのマナが思っていたよりも少ない。しかもシュバインのマナは凄まじい勢いで消費されているぞ。俺はすべてを悟り、回避を止めた。


「どうした!?もう諦めたか?食らえー!」


ここぞとばかりにケルビムは魔弾を連発させてきた。

無数の魔弾が直撃し、周囲には煙が立ち込めた。本来ならこの数の攻撃を受けたら俺でも無事では済まないだろう。


しかし、その魔弾は俺には全く通用しなかった。


「やはりな、お前は大きな勘違いをしている。」


俺は無数の魔弾を今度はホーリーシールドではなく、通常の防御魔法で全て防いだ。


「な、なに!?どいう事だ!?なぜ防げる!?」


「驚いているという事はまだこの魔法の欠陥に気付いていないようだな。

よかろう、冥土の土産に教えてやる。

お前はケルビムを完全に復活させたつもりだろうが、こいつは本物に限りなく似せた偽物と言っても良いだろう。

肉体は本人とほぼ変わらないようだが、装備は先程の攻撃で跡形も無く消え、スタッフはお前が持っている。

故にケルビムが今装備している物は模造品にし過ぎない。そしてマナの総量も大きく異なる。

マナは精神の影響を強く受ける。しかし、今のケルビムは傀儡人形のようで感情を持っていない。

肉体に魂が宿っていないのだ。

それにより復活したケルビムのマナの総量や質が本来より劣っていたのだよ。

そして決定打とも言えるのが、この魔法に必要な膨大なマナだ。

死者を蘇らせる魔法はもはや伝説級の魔法と言っても良い。

お前のような実力の者はまず扱えないだろう。

だが、お前はスタッフの膨大なマナを利用して発動を成功させた。

この魔法を発動させた事だけは褒めてやろう。

と言いたいところだが、この魔法は発動させてからが肝心だ。魔法で蘇った者は意思を持たない。

故に術者がマナを消費しながら本人を操る必要がある。

であるにも関わらず、魔法の発動で大半のマナを消費したスタッフには残されたマナは少なく、自分よりも格上の存在を操る程のマナをお前は有していなかった。

結果、ケルビムの蘇生は最初ばかりは脅威だったが、術者が膨大なマナを消費し続けた挙句、使い物にならなくなっていったという事だ。

最初から全てが中途半端だったのだよ。」


「そ、そんな、私の計画が。」


シュバインは観念したかのように肩を落とすと、ケルビムの動きが止まった。


「お前とは生きている内に全力でやり合ってみたかったのだがな。もう安らかに眠れ。」


カイトの呼びかけで感情を持たない筈のケルビムは、死を受け入れた様子で止めを刺してくれと言わんばかりの表情をしている。


「ユーサネイシア(安楽死)。」


即死魔法でケルビムは砂のような細かい粒子になり消え去った。二回目の死である。

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