遠距離恋愛からの卒業【なろうラジオ大賞6】
夜行バスの窓に月明かりが淡く映る。
舞は窓にもたれかかり、ふと微笑みながら小さくため息をついた。
遠距離恋愛中の彼に会うため、舞は一人バスに揺られている。
──このバスに乗るのも、これが最後。
彼が転勤で遠い街へ引っ越してから約二年半。
離れた直後は頻繁に連絡を取り合ったが、次第にその頻度は減り、今ではほとんど途絶えてしまっている。
それでも舞は信じていた。
再会すれば、二人の関係は元に戻ると。
──もうすぐ会える。
彼にはまだ何も伝えていない。
驚かせたかったからだ。
そして会ったら笑顔で「もう遠距離恋愛は終わりにしよう」と伝えたかった。
朝日が鋭く差し込んでくる頃、彼の住む街に到着した。
凛とした空気が肌に刺さるようだ。
自分を鼓舞するように深呼吸をし、彼のアパートへと向かった。
階段を上がり、彼の部屋の前で立ち止まる。
軽くノックをすると、すぐに扉が開いた。
「慎……」
目の前に現れた舞の姿に慎は驚き戸惑い、そして恐怖で顔が引きつっていた。
「急に来てごめんね。慎を驚かせたくて」
舞は笑顔を作りながら、溢れる思いを言葉に変えた。
「もう遠距離なんて無理だよ。だから一緒に住もう? 私、慎をそばで支えたいの。それに慎、顔色悪いよ。きっと疲れて……」
「舞」
遮られるよう静かに名前を呼ばれ、息を飲む。
彼の瞳には一切の愛情が浮かんでいなかった。
「もう終わりにしよう」
頭が真っ白になる。
それでも懸命に言葉を探し、震える手で彼の手を取った。
「ごめんね、急に来ちゃったから怒ったんだよね。でも私、本当に慎が心配で……」
慎は力強く舞の手を振り払った。
「お前、重いんだよ。今日だってそう。いきなり来て、結局自己満だろ? 気持ち悪い」
蔑むような冷たい視線と言葉。
自分という存在そのものを否定された気がして、胸の奥で何かが崩れる音がした──。
気がついたら夜になっていた。
慎は舞の腕に抱かれ、静かに横たわっている。
「本当に、終わったんだね」
手には慎の身体に包丁を突き刺した時の感触がまだ残っていた。
その感触が、とても愛おしい。
彼の冷たくなった口元に、そっと唇を重ねる。
「もう遠距離恋愛なんて、しなくていいね」
舞は手元にある血みどろの包丁を見つめ、紅潮させながら微笑んだ。
もう一度キスをして、包丁の刃先を自らの胸に向ける。
「すぐに行くからね。ずっと一緒だよ、慎」
二人の鮮やかな赤が交わっていく。
差し込む月明かりが、舞と慎を優しく包み込んでいた。
お読みいただきありがとうございました。
クリスマス投稿ということで、某誠◯ねアニメをオマージュしたくなり速攻で仕上げてみました。
他に投稿している【なろうラジオ大賞】は全部ビターエンドです。
世にも奇妙な物語とかがお好きな方には合うかなと思います。
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