その絵
探し求めたのは、
素敵な出逢いだったと、
そう言っても遠くない。
美しい女の優しい。
若い頃はやはり、
美しい女に憧れた。
言葉や仕草やなんだろう、
それらが心の絵にある。
どこでどうしたかは
あまり覚えていない。
ただ、そんな心の絵は
現実の絵にはなかった。
憧れとか、望みだとか、
それを現実の絵に
描くほどには、本心には
なかったとする。
差し迫ったものが
なければ、本心など
見えないままでも、
生きてゆけるもの。
そして、いつか出逢う。
ときめいたりしながら、
言葉や笑顔やなんだろう、
幸せってこれかなと。
週末になっても、
約束などない頃は
二人はただの友達だから、
訪ねなかった。心の絵まで。
何気ない言葉を並べて、
時間を塗り絵にした。
流れる風に吹かれて、
心地よい方へ向いた。
一歩分、離れたまま
わりと笑い合っていた。
降りそうな空模様、
気にしながら歩いた。
夏の後の雨になれば、
心の見えなかった色も
言葉や吐息やなんだろう、
少しくらい染まり出す。
人は相変わらずで、
何もわかってなくて、
愛し合えたというのに、
この絵をわかって欲しい。
薄く重なる肌の温もり、
持って生まれた相性、
探し求めてたかしら。
そうね、本心のかしら。
この町で生きてゆく、
美しい女、すれ違い。
この町で生きたとして、
懸命に、その絵だけ。