UFOと夏
「それじゃ、行ってくるね。銀河の端っこから地球に連絡できるかわからないけど……連絡できたら連絡するね」
田舎の寂れた駅。いつもと同じように夏の日差しは眩しくて、いつもと同じようにホームから見える山は一部だけくり抜かれたみたいに禿げていて、山肌を覗かせている。いつもと違うのはホームに彼女の付き添いとして国連の偉い人がたくさんいて、彼女は向かおうとしている場所が、高校の最寄駅じゃなくて銀河の端っこだということくらいだった。
国連職員の一人が声をかけてくる。彼女のために貸し切られたいつもの電車が空気音を発しながら扉を開ける。
「ここで待っててね」
電車に乗り込見ながら彼女が僕に言った。僕は考えとくと言った。彼女は電車に乗り込み、電車のベルが鳴る。それから錆びた音を鳴って、電車はゆっくりと走り出していった。
*****
昔この村の山にUFOが墜落して、とある村人がそれに乗っていた宇宙人を助けてあげた。その言い伝えが本当だったっていうことだけでも驚きなのに、その時助けた宇宙人の子孫が遠路はるばるこの村までやってくるなんて信じられるわけがなかった。
「私たちは地球との間に惑星間友好条約を結びたいと考えています。そして、その条約締結を成立させる際には、はるか昔に我々の祖先の命を救ってくれた人の子孫を我が星に招待したい。この地球で起きた出来事は我が星でずっと語り継がれているため、その恩人の末裔は友好条約のシンボルになってくれるはずと睨んでいます」
この村にやってきた宇宙人は、この村の公民館で、NASAとか国連の高官を前にしてそんな提案を行ったらしい。そしてそのかつて宇宙人を救ったとある村人の子孫、それが彼女だった。
危険もあるし、行かないという選択もできる。それでも彼女は迷うことなく行くと言った。周りの人たちはみんな驚いていたけど、僕だけは驚かなかった。彼女はこの村の言い伝えを信じていた数少ない一人だったし、何より彼女はインドア派ではなくアウトドア派だったから。
ここで待ってて。そう言われた僕はこの村で彼女の帰りを待ち続けた。なんの用事もない時は駅に行って、寂れたベンチで向かいの山をぼんやりと眺めるのが日課になった。数時間に一本の電車が駅に着くたびに、僕は車両の中を確認したけれど、隣駅に住むお祖父さん一人だけ座っているか、それかそもそも誰も電車に乗っていないかのどちらかだった。
彼女がいなくなってから2回目の夏がきて、3回目の夏がきて、それでも彼女が帰ってくることはなかった。そろそろ就職を考えなきゃと思っていた頃、ちょうど駅の管理人がやめるということで僕が代わりに雇ってもらえることになった。
それから僕は1日のほとんどを駅で過ごすようになった。元々の利用者の少ない駅で仕事は少なかったから、周りを掃除するか、駅員室で外の景色を眺める時間が大半だった。
彼女がいなくなってからもこの村だけ時間は止まってしまっているようで、何もない平和な時間が流れ続けていた。それでも電車が駅に止まる時間だけは僕は必ずホームにいるようにして、電車に彼女が乗っていないか確認するのだった。
もう彼女はあっち星にとっくの昔に到着していて、向こうで出会った惑星の王子様とでも結婚したのかもしれない。
そんな考えが思い浮かんだけれど、それで彼女が幸せならそれはそれで良いことだとも思った。そんなことを考えながらホームのゴミ拾いをしていると不意に肩を叩かれた。後ろを振り返るとそこには、この村を出て行った時と全く変わらない姿の彼女が立っていて、久しぶりと僕に笑いながら言った。
どうやって帰ってきたの? 行きと同じように電車で帰ってくると思っていた僕はおもわずそう尋ねる。彼女は呆れながら空を指差す。僕が空を見上げると、そこには複数台のUFOが飛行していた。
「大変だったの。行きのUFOで危うく銀河を遭難しそうになったり、惑星に着くなり反体制派のクーデターが起きたり、自分が本物の子孫だって言い出す偽物が現れたり……それでもなんとか友好条約結ぶことができたの」
まあ、積もる話はたくさんあるけど。彼女はふうと肩を落としながら、言った。
「とりあえず、ただいま」
それに対して僕が返事を返す。
「うん、おかえり」




