第4話 バズりブラック!
翌日、学校の教室。
――とんでもないことになっていた。
「なあ、昨日のブラックの動画見たか!?」
「ヤバすぎだろブラック。マジかっこけえ」
「ブラック参上! つうか、絶対、君内さん、惚れてるよなあ?」
いつもの右奥右下コスミ(一番端の席という意味)に座っていると、クラスカースト最上位陽キャの三人がスマホを片手に叫んでいた。
その話題は、まさかのブラック。
流石にこのご時世、更に物静かな俺が配信しているのがバレると「マジかよ!?」と茶化されるかもしれないので黙っている。
「ねえ、私も見たー。ブラックかっこいいよね」
「わかるわかる。まず声がいいよね」
「私は全部が好き」
すると更にカースト最上位の頂点の三人女子が追加投入された。
陽の力が凄すぎてまともに見られないが、その話題の中心は俺ことブラックこと黒羽黒斗である。
もし今俺がここでブラック参上! と言えば人気者になれるだろう。
だがそんなことは口がブラックになっても言えない。
その時、俺のポケットの通知が鳴った。
いや、鳴り響く。
ピロピロピロピロロロロロン。と、止まらない。
「何の音だ?」
「エイクスじゃない?」
慌ててスマホの通知を切る。
昨晩、いや君内風華さんを助けてからというもの、俺個人の配信アカウントの通知が止まらないのだ。フォロワー3人が、まさかの『45万人4712人』と書かれている。ちなみに俺は端数を切らずにいうタイプだ。一人一人を大事に、それがブラックのポリシー。
ちらりと掲示板ものぞいてみたがとんでもないことになっていた。
なんか知らんが俺が倒した魔物が実はとんでもなく強かったらしい。
……そ、そうなのか?。
通知を切ろうにもアプリが重くて起動しない。
一度設定までいったが、通知のアラームのせいで何もできない。
なので今の俺のふとももは永遠に震えている。
今日ずっとこのままなら筋肉が鍛えられて右腿だけムキムキになるかもしれない。
いや、それはそれでありか? 俺のブラックシュートが強くなるかもしれない。
だが今回、俺自身の人気というよりは、人気配信者の君内さんにおんぶにだっこしたようなものだ。
これはただの棚から牡丹餅。
いずれ収まるだろう。俺の実際の実力は大したことがない。
「やっぱりみんなブラックの動画について話してるね。黒斗は見た?」
「ま、まあちょっとだけ」
隣の席から俺に声を掛けてきたのは、幼馴染の御船美琴。
華奢に見えるが、スタイルが良く。長い黒髪、目が大きいのが特徴的だ。
あまり友達のいない俺だが、唯一気軽に話せるやつだ。というか、配信好き仲間でもある。
ちなみに俺がブラックだということは伝えていない。
「凄かったよね。私じゃ絶対倒せないよ、あのダンジョンボス」
「美琴でも……無理なのか?」
「誰でも無理だと思うよ。少なくともS級じゃないと」
ダンジョン探索者にはランクがあり、美琴は何とA級だ。
もちろん一緒に行ったことはない。
というか、やっぱりそんなあのボス強かったのか。
「そういえば……黒斗は今でもダンジョン行ってるの?」
「ああ、たまにな」
「なんで私とは一緒に行ってくれないの?」
「1人が好きだからな。それにパーティー組んでるんだろ?」
「そうだけど……もういい」
なぜかよくすねるやつでもある。
小さい頃はもっと男らしかったが、見た目が女っぽくなってからよくわからないことを言うようになった。
「ねえ黒斗……約束覚えてないの?」
「何だ、約束って――?」
その時、教室の扉が開く。
立っていたのは、君内風華さんだった。
いつもメディアの露出で忙しいので学校に来ることは少ない。
モデルと更に配信をこなしているとで大変だろう。
「おお、君内! 配信みたぜ! 身体は大丈夫なのか?」
「今のところは問題ないよ。ありがとうね」
「こいつが実はブラックだってよ!」
「はいはい」
陽キャを適当にあしらいながらも、笑顔を絶やさない。
うーん、いつみても綺麗だ。
その時、なぜか目が合う。
俺は慌てて窓を向いた。
青空が綺麗だ。
「ねえ、黒羽くん」
あの鳥、なんか黒くてかっこいいな。
ブラックバードと名付けよう。
その隣もちょっと黒い。あいつはブラックバード二号だ。
「聞いてる? 黒羽くん」
お、あの雲、少し黒っぽい。
ブラックスモッグと――。
「黒・羽・く・ん」
すると、俺の耳に吐息がかかる。
思わず飛び起きそうになり、椅子がガタンと落ちた。
視線が集まる。
いや、それよりも、君内風華が俺を見ている。
ちなみに美琴は目を見開いて驚いているみたいだ。
「やっと気づいた」
「……え?」
「さっきから呼んでたよ」
「そ、そうなのか。聞こえなかった」
「そう。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
な、なんだ? てか、周囲の視線が凄い。
なんで俺に声を?
もしかして……バレたのか?
俺がブラックだと?
「配信者のブラックさんって、知ってる?」
「え?」
や、やっぱりそうだ。
な、なんでだ?
間近でみたからか? でも、俺と君内さんは絡みがない。
バレる要素なんてないはずだ。
「え、ええと――」
俺が困惑していると、君内さんは周りに気づき、そして俺の手を掴んだ。
「こっちきて」
「え、えええええ!?」
そのまま外に引っ張り出される。
「ちょっと黒斗、どこいくの!?」
「え、そ、そんなこいわれてもおおおおおおお」
そのままクラスメイトたちの視線を浴びながら屋上に連れていかれた俺は、君内さんに――歩み寄られる。
「ねえ、黒羽くん」
「な、なんでしょうか」
「ブラック――」
や、やっぱりばれた!?
で、でもなんか悪いことしたか!?
「と、凄く似てるよね? もしかして親戚だったりしない?」
「……え?」
「声とか、風貌とか。私、魔物を注意深くよく見てるから些細なことに気づくタイプなんだけど、黒いコートのせいでわからなくて……ねえ、何か知ってたら教えてくれない?」
あぶねえ……。
いや、もしバレてたら獲物を横取りしたからといって怒られたのかもしれない。
配信も凄かったもんな。
でも、間近で見ると綺麗だな。いや、まてまて。
「知らないよ。ごめん」
「そう……」
なんか残念そうだ。やっぱり直接文句を言いたかったのだ。賠償金は勘弁だ。
だがいくらなんだろう。
配信者としても凄いから、とんでもないことになるのか?
一応聞いておくか。
「なんでそんなに気になるの?」
「え?」
「ブラックのこと。俺も動画、見たけどもしかして……横取りされたから?」
すると君内さんは途端に静かになった。
やっぱりそうか……。
こりゃますます何も言えないな。
「そ、そんなの……黒羽くんには言えないよっ」
すると、凄まじい色っぽい声を出しながら、頬をあからめてもじもじした。
……なるほど、君内さんは怒るとこんな表情するんだな。
かなりカワイイが、仕草は人それぞれだ。
「ありがとう。突然ごめんね」
「いや、大丈夫だよ。こっちこそごめん」
そして最後に君内さんは、振り返って微笑んだ。
「黒羽くん、やっぱり話しやすいね。ありがとう。それじゃあまたねブラック!」
「え?」
「あ、ご、ごめんなさい!? ちょっとブラック様の動画みすぎて!?」
「え?」
「な、なんでもない!? またね!?」
そういって消えていく君内さん。
さよならブラック……。
いったい、どういうことなんだろう。
というか、ブラック様って言ってなかったか? いや、気のせいか。
まあ偶然とはいえ、登録者は増えたのだ。
君内さんには悪いが、この運を大事にして、次の配信も頑張ろう。
次は――自分の力で。
「ガンバブラック!」
【大事なお願いです】
「面白い」」
「この話の続きが気になる!」
「良いブラック!」
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