第1話 うわ…俺の呪術、地味すぎ?
「誰も見てくれない……」
深層のダンジョン地下、薄暗い牢獄のような場所。
俺は【ブラックのダンジョン討伐】と書かれた配信画面を眺めていた。
その横には、同時接続者0人と書かれている。それを見て、静かにため息を吐いた。
一つだけ残っているコメントは、「お通夜乙」のみ。もちろんその人はすぐに消えていった。
ブラックは、俺の配信者としての名前だ。
本名は黒羽黒斗。高校一年生、彼女いない歴=年齢。アニメ好き。好きな色はもちろん黒だ。
世界中にダンジョンが突然現れて以来、一攫千金を求めた人たちがこぞって集まった。
同時に配信での収益化もはじまり、配信ブームが一気に広まった。
そんな俺も人気配信者になりたいと願い、一年以上、ほぼ毎日ライブしている。
だが人気は皆無だった。
もちろんできることはしている。
ただ配信するだけじゃなくて、SNSで告知したり(フォロワー3人)、わかりやすい初心者動画をあげたり(登録者数3人)、交流をしようとしたり(オフ会0人)。
だけど、一向に人は集まらない。
そのとき、ピロンという軽快な通知音が聞こえた。同時に接続者1人と表示される。
あまりにも驚いた俺は、少し上ずった声で挨拶をしてしまう。
「こ、こんばんブラック!!」
これは、俺が考えに考え抜いた挨拶だ。
正直めちゃくちゃ面白いと思うが、反応がないので良いのか悪いかもわからない。
”昼だけど”
ちなみに朝昼夜兼用の挨拶なので、時間は関係ない。
あまり良い反応ではないが、嬉しかった。
ちなみに今の俺は、闇のコートみたいなのを着ている。
以前、ダンジョンでドロップしたものだ。俺の能力にも適しているので気に入ってる。
”なんか画面ブレてない?”
そのとき、続けてコメントが2つ目。
俺は嬉しくなった。
ちなみにブレているのは、この間にずっとアンデットモンスター10体が俺を殺そうと剣を振っているからだ。
すぐに倒しても良かったが、一人で配信画面を眺めているのはつらく、ソッとしておいた。
いや、まてよ。
今ここでまとめて倒せば、一気に盛り上がるんじゃないのか!?
「そ、それではブラック、アンデットモンスターを討伐する!」
配信を固定しながら、魔物と距離を取る。
そして俺は、攻撃を回避しながら、とんっと手を置きながら呪いを付与した。
最後に右手の人差し指と中指をピンと立てる。
そして――能力を発動させる。
【死の宣告】。
次の瞬間、魔物の頭の上に数字が表れた。
それは10秒からはじまり、9.8とカウントダウン。
そして0になった瞬間、アンデットモンスターは糸が切れたかのようにプツっと地面に砕け落ちた。
ダンジョンが現れて以来、多くの人が【能力】を得た。
それは個性が反応されているらしく、俺は【呪詛】という、敵を呪う能力だった。
今のはスキルの一つでしかないが、突然魔物が死んだら驚くはずだ。
攻撃を食らわないで無敵感もアピールできただろう。
「討伐完了――」
かっこよく言い切り、俺は配信を見つめた。
返事はない。だが入力中かもしれない。
じっくりと待っていると――。
”は? 何が完了だよ。突然魔物が倒れただけじゃん。つまんね”
「……え? ええええええええ!?」
そしてまた0人と表示された。
そう、俺の呪いはとにかく地味なのだ。
俺が口下手なせいもあると思うが、伝わらない事が多い。
以前までは、この思いよ届け! みたいに、この呪いよ届け! みたいなのを決め台詞にしていたが、通報されたらしく、3日間の利用停止になったことがある。
ちなみに1人しか見てなかったので、おそらくその人にされた。
「……難しいな」
とにかくつらい。世界と繋がれるはずが、なぜか孤独だ。
俺は……それなりに戦えると思う。
地味な能力ではあるが、今までピンチになったことはない。
そのせいで合成も疑われたことはあるが、事実そうなのだ。
もっと俺に喋りの才能があれば違っただろう。
もしくは、アシスタントがいれば変わるかもしれない。
有名な配信者には、専属のカメラマンがいて、掛け合いとかで笑いが起きたりするものだ。
俺に足りない欠片。
だが俺はそこそこ人見知りで、同級生と会話するのもオドオドしてしまう。
とはいえ、【ブラック】としてなら配信上で話すことができる。
だからこそ黒いコートに身にまとい、キャラを作っているのだ。
いつか、有名配信者になって、誰からも認められる人になりたい。
後、できれば彼女がほしい。
後できれば金持ちになりたい。後、できればいいPCとかもほしい。
そんなハリウッドスターみたいな夢を抱きながら、配信を切る。
明日はもっと頑張ろうブラック! と思っていたら、急上昇中! という通知が目に入った。
【君内風華の最奥配信!】
そこには、同時接続100万人と書かれている。
「君内さん、凄いなあ」
彼女は俺と同じ高校生配信者で、【光魔法】という稀有な能力を持つ人気者だ。
さらに俺と同じ学校なのだが、容姿端麗、才色兼備、配信者という三拍子で、リアル光でもある。
何度か生配信を見たことあるが、軽快なおしゃべりと、どんな時でもポジティブな彼女は、みているだけで楽しくなる。
視聴者のことを考えて深夜のラジオや、オフ会もしているらしく、とにかくすごい。
一生懸命で努力家なところが人気なのだろう。
何気なく開くと、コメントが滝のように流れていた。
すごい……ん?
だが俺は、その画面のブレとコメントに気づいた。
”やべえ、風華ちゃん逃げて”
”おい誰か助けにいけないのかよ?”
”こんな最奥にいける配信者いないぞ”
”てか、なんでダンジョンボスが突然沸くんだ”
”みたくないこわい”
突然のことに驚いた俺は、食い入るように画面を見続けた。
”誰か、誰か助けて風華を”
……もしかして。
配信画面に映っている壁に見覚えがある。
ここからそう遠くない場所だ。
”でも、風華ちゃんの魔法も全部きかないなんで、誰も勝てないよ……”
「きゃああああぁああ」
そのとき、スマホからではなく、俺の耳に君内風華の声が聞こえた。
魔物に襲われないように、呪力で聴覚、視覚、ついでに味覚の能力を上げている。
気づけば俺は、悲鳴が聞こえた方向に駆け出していた。
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