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地球・蘇る魔力

 地球の人々の多くは、最初の数日ほどは『何か』を何かの気の迷いではないかと思っていた。

しかし、『何か』を自分に特別な力が芽生えたと考え、狂喜乱舞したものや己が神か何かに選ばれたものだとか考えた者は世界どこでもそれなりに言えるのである。

そういった者たちの多くは、最初のうちその気分は天に舞い上がったが、すぐに『自分だけではない』という現実を知ることになり、地に叩き落とされることになる。

「私って何日か前から『何か』感じるんだけど気のせいかなぁ?」

最初は少しずつ、リアルやSNSで話題となり、それが自分だけではないと知ると俺も私もと自分も『何か』を感じるようになったと告白するものが続き、世界の人々は遅かれ早かれそれが自分だけではないことを知ることになった。

人々が突然『何か』を認識するようになってから一週間も過ぎた頃には、世界の各国のマスコミも『何か』を特集を組んで取り上げるようになり、もはや『何か』が妄想ではなく現実であることと『何か』を感じるのは全人類皆共通であることは当然の認識となった。

そして各国政府の政治家や官僚も『何か』について議論するようになる。


 智也とその研究者仲間の超心理学者たちは自分達の確認した現象を連絡しあった後、『何か』をどう呼ぶべきかオンラインで議論した。

いつまでも『何か』では議論もしにくい。

何か何かでは論文も書けない。

智也は、いっそそのまま『ナニカ』というのも思いついたが、どうにも格好が悪いと思いなしボツにした。

結局、アメリカの研究者の提案が採用され、このおそらくは何らかの力(と人間には感じられる)ものを、すでにある言葉を用い『魔力』と呼称することになった。

魔力で以て現実に何らかの影響を与えること…、今のところ確認されているのは、物体の加熱と冷却、そして殺人の三つであるが…、これも新たに造語を作ることなく、すでにある言葉で『魔法』と呼称する。

これらは親しみやすい言葉であることもあり、広く一般的に使われるようになる。


 次の話題はなぜ突然人々が魔力を感じるようになったのか、とりあえずどんな馬鹿馬鹿しい考えでもとりあえず思いついたら発言することだった。

「世界中の人間の方に、突然何かの変化が起き魔力を感じたり操ったりする能力が芽生えたという考え。この場合宇宙には魔力という未知の『何か』が最初から存在していたのだが、我々は魔力に対して盲目だったわけですね。もう一つは今まで宇宙には魔力なんて物は存在しなかったが、宇宙そのものが変化して魔力が発生したという考えです」

「世界全ての人間が突然変異したという考えも、宇宙が突然変化したという考えもなかなかに突拍子もないが」

「古典物理学ではかつて光の媒質としてエーテルを想定していた。それから思いついたんだが、実は宇宙には魔力を伝える媒質が存在していて、濃かったり薄かったりするのではないか。今まで地球は魔力を伝える媒質がなかったが、今はあるということではないか」

「今まで宇宙でも魔力の媒質がないか薄い所に存在していた地球が、宇宙空間を移動して、今は魔力の媒質が存在する所にあるということか」

「その説だったら突然世界に魔力が存在した現象を説明しやすい」

「だが何故我々は魔力を感じることができるのだろうか? 突然世界中の人間に魔力を感じる感覚器官が生えてきたわけではあるまいよ」

「人間は元々魔力を感じることができたのではないか? 地球は元々は魔力が存在する惑星で、生物はそこで発生し進化したのだ。だから我々にも魔力を感じる能力がある。先ほどの魔力を伝える媒質の話を取り入れるのなら、かつて地球は魔力の媒質の存在する領域にあったのだが、いつ頃かはわからないが、我々が文明を持ち記録を残せるようになった頃には地球はすでに魔力の媒質の無い領域に移動していた。そしてまさに今再び、我らが地球は魔力の存在する領域に移動したのだ!」

「それなら色々説明できる。まだ仮説にすぎないとはいえ、有力な仮説と言えるだろう。魔力を伝える媒質の呼称は古典物理学からそのまま『エーテル』でよいかな?」

「賛成です」

「賛成」

「賛成」


 超心理学者達は、元々あまり注目されないマイナーなジャンルの研究者だったが、人々が魔力を感じられるようになってから、政府やマスコミから意見を求められることが多くなった。

魔力、魔法という呼称、そして宇宙には魔力の媒質であるエーテルが存在し、それには宇宙でも濃い所や無い所があり、地球はエーテルのない空間からエーテルの濃い空間に移動したという仮説は、これにより世界でも一般的なものとなったのである。

エーテル仮説に基づき、人々がある日突然に魔力を感じるようになった現象は誰が言うともなく『魔法の復活』、魔力を感じ操作する能力は『魔法の素質』と呼ばれるようになった。


 そして世界に魔法が復活して以来、約一月ほどが経過した。

魔法の利用法の研究やエーテル仮説の検証、魔力の測定法の確立などの研究のために予算が配分されたり、しかるべき機関にそのための人員が配置されたりとわずかな変化はあったが、一般市民の生活はあまり変わっていない。

今の所、魔法でできることは物体の加熱と冷却、殺人くらいしかないのである。

魔法による殺人と思われる事件は世界中で増えていた。

念じるだけで、指一本動かすことなく人を殺せるとなると、殺人という行為へのハードルは格段に下がるようである。

世界中の多くの司法機関は、『魔法による殺人は物証がなく、裁判では有罪とされない。もし捕まっても証拠はないからすぐ釈放される』という世界各国で広まっている言説を打ち消すべく、『司法解剖により外傷がなく、老衰や病死でも毒物でもない今までの法医学においては死因不明とされる結果は、魔法による殺人の証拠と見なされる』という趣旨の見解を公表している。

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