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日本と百合帝国・接触ーその3

 百合帝国を飛び立ったヘリコプターは、日本の空母型護衛艦の飛行甲板に着鑑した。

日本艦の着艦誘導システムに対応しているわけではないが、人工知能により制御され完全自動操縦で飛行するヘリコプターは危なげなく易々と着艦を行う。

放射能物質、病原体、化学兵器に対応した防護服に身を固めた人員が艦内から現れ、ヘリコプターの周囲を取り囲んだ。

その中に外交官の二人、和夫と美香の姿もある。

言葉のわからない相手との交渉なんてものは、プロの外交官とて専門外ではあるのだが、役職による職責である。


 ヘリコプターの後部が開く。

「宇宙人ならヘリコプターじゃなくて円盤に乗ってきて欲しかったんですけど」

美香が、緊張をほぐすためなのか軽口を叩く。

その時、彼らは意識に何かが接触し割り込むという、魔法とも異なる未知の感覚を覚えた。

それは概ねこのような意味となる。

『代表となるものは一名、我々の乗り物に入ってきてください』

サヤカの精神感応能力である。

未知の感覚への戸惑いはあるが、ヘリコプターの内部の宇宙人の要望は理解できた。

「俺が行こう」

和夫が進み出た。

自分は外交官であり、美香より年長で先輩で男でもある。

彼らに敵意は無いと思うが、危険かもしれない所にはまず自分からが妥当であろうという判断だった。

「先輩、お気をつけて…」

美香は(でも、気をつけてどうにかなるものなのかな?)と思いつつもそう声をかけた。


 開放された後部ハッチから内部に入ると、ハッチはゆっくりと閉まった。

(あれが宇宙人だと?)

そこで待っていたのは四人のあまりにも美しすぎて作り物じみた不自然なまでの美少女たちだった。

アリスとサヤカである。

(宇宙人はエプロンドレスの女の子なのか? それにメイド服?)

他の二名はメイド服姿のアンドロイドメイドであり、作り物じみているのではなく実際に人工物だった。

美少女性の追求を国是の一つとする百合帝国では汎用二足機械も美少女なのである。

雑用係であり、一応護衛役でもある。

サヤカの水着じみた肌の露出の多い服装は、普通、日本ではフォーマルな席では見ることのないものであるため、逆に宇宙人らしい異質さということでかえってツッコミを入れる余地がなかった。


 サヤカが意識を集中させ、精神感応能力で和夫に対し語りかけた。

『失礼ですが、まず貴方方がどのような種族か理解するために生体組織のサンプルを採取させてもらいたい。受け入れていただけますか?』

『私の方はかまいません』

和夫には精神感応能力での会話の経験など初めてだが、たぶんこうだろうと意識の上に言葉を並べて返答とした。

返答の方法はそれでよかったのだろう。

追加の言葉が意識に割り込む。

『それではこちらに横たわってください』

大きな寝台を指す。

目測で3メートル半ほどはあるだろうか。

『楽にしてください』

アンドロイドメイドが寝台に横たわった和夫の腕を抑え、注射器を刺す。

微かにチクリとする感覚。

これでもう、生体組織のサンプルの採取は終わりだろうか?

『引き続き、あなた方の言語の学習を始めますので、楽にしたまましばらく待ってください』

和夫は、いいと言われるまで横たわったままで体の力を抜いて待つことにした。


 それを確認したサヤカは和夫の横たわる大きな寝台の側の、簡素で狭い寝台に身を横たえた。

自分の脳と、寝台に備わったコンピュータの接続確立を確認し、言語技能アプリ制作のための人工知能がきちんと待機状態であることを知る。

そして脳内コンピューターに、自分の精神をシステムの一部品として使用するための特殊な変性意識状態に導くためのアプリを走らせる。

サヤカの精神は言語解析システムの一部となった。

彼女の精神感応能力が和夫の精神を探査し言語情報を汲み取り、それをサヤカの脳と接続している言語解析システムが学習していく。

和夫の主観で1時間ほどでそれは完了した。

日本語の言語技能アプリが制作され、百合帝国のアーカイブと、他の二つの都市国家「正統後継帝国」と「生存主義帝国」のアーカイブにアップする。

これにより三都市同盟の民は誰でも好きな時にネットから日本語の言語技能アプリをダウンロードし、日本語を使いこなすことができるのである。

三都市同盟において、精神感応能力など、精神で直接現実を操作するような力は幻想の物に過ぎず、人間にはそんなものは無いという見解が一般的だった。

しかし、遺伝子操作による知性増強が当たり前となってから、精神と精神を直接接触させる精神感応能力、念じて物体を動かす念動力などの能力に覚醒するものが現れ始めた。

おそらくは知性増強が一定の閾値を超えると精神で宇宙に直接影響を及ぼせるようになることがあるのだろうと言われている。

原理はともかく、その応用を試みるものたちが開発したものがこの精神感応能力を用いた未知の言語を解析するシステムだった。


 「すみました。もう起き上がっていいですよ」

(あ、言葉で話してる…って日本語?!)

サヤカは口に出して、日本語で和夫に優しい口調で話しかけた。

「いや…、言語の学習をするとは聞きましたが、寝ているだけで私たちの言葉をマスターするとは…驚きましたね」

「ふふっ、それでは互いに自己紹介の時間といきましょうか」

そう、和夫の仕事は始まったばかりである。

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