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自撮り怪獣「メンヘラー」

作者: ロック

 少女は、自宅にあるメイド服を着用した。

 地雷系メイクと呼ばれる濃いメイクになった彼女はスマホで自分の写真を撮る。

 そして、撮った写真を加工アプリで別人としての彼女が端末上に生まれた。

 その彼女は、躁病てゃん!というハンドルネームでTwitterを行なっており、躁病てゃん!は、自撮りをツイートする際に「#美男美女さんと繋がりたい #自撮り界隈 #雰囲気可愛いと思ったらいいね」と添え、ツイートした。


 そして、通知でスマホのバイブ音が響く。

 どんどん増えていく「いいね」そして「リプライ」、そして男からの大量のDM。

 彼女は窓の外から夜景を見つめながら、深呼吸。

 そして、一言「私って可愛いんだ」と呟いた。

 フォロワーは3万人フォローは10人の躁病てゃん!は、決して躁病を患っているわけではないが、この"自撮り界隈"と呼ばれるTwitter上で自撮りを載せているユーザー達の大半は精神疾患の名前をハンドルネームにする傾向があるらしい。


 さて、そんな躁病てゃん!のフォロワーの1人であるみく氏。というハンドルネームでTwitterを行なっている彼女は、本当の精神疾患を患っていた。

 うつ病を患っている彼女は金曜日のこの日は受診日である。

 田中ドクターに、彼女は学校での悩み事などを聞かれる。

「学校行けてる?」

「行けてはいますが…そのなんと言うのかな、私は…そのもっと承認されたくて…」

「焦らなくても、君を承認してくれる人は現れると思うよ」

「先生・・・私・・・」

「一応頓服でリーゼ出しておくね。

 でもちゃんと学校に行けるようになって偉いよ」


 彼女の受診が終わり、そのまま11:00、彼女は登校した。

 クラス内では孤立しており、ずっと誰かに認められたいと強く願っていた。


 休憩時間、彼女はTwitterを開いたら、美容整形モニター募集してます!とDMが来ていた。

 指定された場所は学校から3km離れた、マンションであった。

 怪しさはあるが、フォロワー数も多かったため、彼女は信用し、放課後、指定されたマンションの一室に来た。


 そこに白衣を着た1人の男がいた。

「今日から君は美少女に生まれ変わる。」と彼に言われると、彼は一杯のジュースを渡した。

「これで綺麗になれるの?」

「ああ、今日から君はアイドルだ」

 彼女はジュースを飲むと、そのまま深い眠りについた。


 彼女が目覚めると、少し体が重たい。

 どうやら、マンションの一室で眠ってしまったらしい。時間は午後7:00、急いで家に戻ると、親から「あんた誰?」と言われた。

「私よ!私!花宮瀬良!」

「声はせらちゃん・・・あんた鏡見てきなさいよ!」

 少女が鏡を見ると、眼前には肌が白く、鼻筋も通った美少女の姿があった。


 その後、少女は父親に呼び出された。

「何があった、言ってみなさい」

「美容整形のモニターを受けた。」

「勝手な真似を!」父は彼女を打とうとした。

「やめて!お父さん!せっかくうつ病も改善して学校も行けるようになったのに」と、母は必死に父を止めた。

 父は自室に戻った。

「まぁ…せらちゃんが元気になったなら私は何も言わないから」

「ありがとうお母さん・・・」と少女は涙をこぼした。

 その夜、無加工でTwitterに自撮りを載せた。


 翌日、フォロワーが2800人も増え、DMにはモデルのスカウトメールや、アイドルグループのスカウトDM、出会い厨とよばれるネット上の少女に会おうとする中年男性達など、ありとあらゆる人からDMが来た。


 その土曜日彼女は自撮りをたくさん投稿した。投稿するたびにいいね通知が鳴り響く。


 彼女は、満面の笑みを見せた。

 しかし、その頃躁病てゃん!は焦りを感じた。

 躁病てゃん!の彼氏であるミサトがみく氏の投稿にいいねをしており、そして、ミサトはみく氏をフォローしたのだ。

 躁病てゃん!は、嫉妬からリストカット画像を投稿するようになった。


 その頃、田中メンタルクリニックでは。

「院長、これみてください」と看護師が、患者である花宮の自撮りを見せた。

「別人じゃないか!美容整形をしたとでも言うのか!」

「どうやら、瀬良さんの親御さん曰く、彼女が花宮瀬良さんだそうです。」

「うーーーん、可愛いのはいいとして・・・

 今日は休診とする。」

 田中ドクターはある探偵事務所に足を運んだ。


 コンコンと探偵事務所をノックをしようとしたが、事務所はパチンコ屋のようにジャラジャラとうるさかった。

 田中ドクターは、事務所のドアを開けると、3機のパチンコ台と3機のパチスロ台が並んでいた。

「あ、どうもドクター田中」と23歳の探偵ジュンが会議椅子に腰をかけながらパチンコ台を回していた。

「あ、台の研究ですよ。

 こうも、依頼がないとパチプロとして台を研究しないと…あ、田中さん、依頼ですか?」

「そうだ。」


 ジュンはパチンコ機のスイッチを落とし、田中ドクターから患者である花宮瀬良の情報を伝えた。

「1日でこんなに綺麗になることなんてあるんですか?」

「通常なら考えられない。それにあの家にそんな金があるのか!」

「ヤミ医者だとは思いますが、通常ここまで顔が変わるのに早くても半年長くても1年はかかる。

 骨格さえ別人のようだ。」

「鈴木ジュンさん、どうやら私には事件の予感のように思えてね・・・」


 ジュンはショートピースと呼ばれるタバコを一本缶から取り出し、口にくわえた。

 そして、ライターで先端をつけるとぷぅーとふかす。

「田中ドクター、“キメラ"というのはご存知ですか?」

「なんだそれは」

「キメラは、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態や、そのような状態の個体のこと。嵌合体ともいい、平たく言うと「異質同体」。

 まぁ、動物と人間を融合させるという馬鹿げた話だが、最近読んだ論文で、それを可能にする方法が記されていたんだ。

 もちろん、この論文は暗号化されており、ダークウェブや、ハッカーの手を借りて何とか入手ができた。

 それによると・・・1日目から姿が変わり、徐々に美しくなっていくのだが・・・副作用で怪物になる・・・なんて言ったらSFまんがの読み過ぎだと馬鹿にするでしょう」


「こんな馬鹿げたことが起きてるんだ。

 あんたの言うことも今は信じるよ」

「それで僕にどうしろと」

「彼女の怪物化を止めてほしいのだ!」

「それは無理があるし、なんで僕のような無能探偵に依頼するかなぁ…

 俺は医者じゃない!」

「だが、君は医者になれるだけの才能がありながら医者になってない手塚治虫のような存在じゃないか!それは学会も認めるほどだ!」

「善処します…、それだけ言わせてください」


 田中ドクターは事務所をゆっくりと後にした。


 1ヶ月後の朝

 花宮は高熱を出し寝込んでいた。

 フォロワーは20万人を超え、大物になっていた。

 少女は自分の手を見た。すると、緑色に変色していた。

「ママ、助けて ママ」

 彼女はすごいペースで緑色の怪物になっていき、そして、体が大きくなっていった。

 そして、背中からは蝶のような羽を生やし、窓を突き破って空を飛んだ。


 そして、体は巨大化し、10メートルほどの快蝶になった。

「ギャゥゥゥゥウウウウ」とゴシックロリータファッションに身を包む少女の上半身を噛みついた。

 住民は早急に避難した。

 自衛隊が出動し、蝶にミサイルを放つも効かなかった。

「核を・・・核を使うのか!」と、1人の隊員がこぼした。


 彼女は空を飛び、岩手県にいるミサトの元に行った。

「うわ!なんだ!この怪物は!?」

「怪物!?ひどい!私は、みく氏よ!

 私のこと好きだって言ったよねぇ!」

「こんな怪物知らない!」

「ひどい!」と蝶は、ミサトに思い切り体当たりをし、彼の体を潰した。


 そして、逃げようとする、躁病てゃん!の姿を見つけた。

「可愛いねぇ躁病てゃん!」

「あんたみたいな化け物知らない!」

「私は化け物じゃない!!!」と蝶は躁病てゃん!を脚で掴み、空へ持ち上げ地上に突き落とした。


「自撮り界隈の美女を全員殺してやる!!」

 その時である、強い風が吹いた。

 蝶になった瀬良は飛ばされた。

 飛ばされた先には送電線があった。


 ビリビリと送電線から流れる電流で痺れる蝶怪獣!

 自衛隊は電力会社に要請し、「最大電力」を送電線から流した。

 黒焦げになった怪蝶の瀬良は、死んだ。


 こうして、一件の事件が解決したが、残念ながら主犯である闇医者のアカウントは消えており、アクセスログからの追跡もできなかった。


 しかし、強い承認欲求がある人がいれば、いつかまた同様の事件が起こるかもしれない。

 くれぐれも読者の方々も承認欲求に溺れないように注意して自撮りをツイートしてほしい。


 完

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強すぎる承認欲求はやはり身を滅ぼしますね…。 闇医者はこうやって怪獣を量産しているのでしょうか。
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