祈誓の騎士 五 エピローグ 追憶の六翼の騎士編
彼は、いつもチエの佇んでいるこの辺り、天の玉座周辺を飛び続けている。彼の語る言葉は単純なリフレイン。
「神に栄光あれ。神に仕える選ばれた民に永遠の祝福あれ」
彼は、その言葉を繰り返すようになってから、すでに久しく年月が立っている。ただ、ほかの熾天使たちと違うことは、ときおり思い出したように、玉座近くのチエの近くに降りてくること・・・・。この熾天使はユウト。チエの熾天使と言ってもよいかもしれない。
今、チエは足元に降りてきてくれた六翼の熾天使の体と羽を抱き、いとおしそうに撫でている。
毎日、チエの目には、記憶と身体とを失ってもチエの周りを飛び続ける彼の姿がうつる。チエの脳裏には、かつて彼女を守り切った彼の姿と彼の言葉が今でも鮮やかだ。たとえ、熾天使の彼が記憶を失った自動機械のようになっても、永遠の彼女は永遠の命と永遠の祝福の中に、彼の記憶、彼の姿、彼の言葉のすべてを記憶し続ける。それを永遠に繰り返しつづける。溢れ流れる神からの愛を受けて、チエはこの熾天使に愛を注ぎ続けている。
「今日も祈りの時を一緒に過ごしましょうね」
チエは熾天使が答える知性を持っていないことを知っている。それでも彼女は、目の前のユウトを愛し続けると誓った。ユウトがチエに対する祈誓を果たしたことに応えるように。そして、この熾天使は、必ずチエの足元に降り立ってチエの傍に寝そべる。チエは彼の羽を愛撫し続ける。
「あなたが私を愛し、私があなたを愛したのは…。私たち二人を愛してくれた方がいたから。私たち二人を選んでくれた方がいたから。だから、私はあなたのもの。あなたが私のものであるように・・・・」
こうして、チエは今日も過去のすべてを振り返りながら、ユウトの声に合わせて祈りの言葉を重ねる。
「天には神の栄光。地には平安。私とあなた、愛し合うすべての人たちのために、今までも、これからも・・・・」