そうだ、血を吸いに行こう。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
必要な切符は片道切符。
どこへ行くのか見切り発車。
続くのか、続かないのか。
シメジにも分かりません。
チュンチュンと外で鳴く鳥の声に、珍しく目が覚めてしまった。
と言っても、普段はまだ寝ている時間なので頭はぼんやりとしているが。
布団の中から天井を眺めていたが、折角明るい時に目が覚めたのだからと体を起こす。
コキコキと固まった部分をほぐしながら、カーテンをシャッ!と勢い良く開けた。
ジュッ!と肌が焼けた。
うーん、熱い。
ヒリヒリする。
ちょっと焦げ臭い。
それなりに日光は気に入ってるのに、直接光を浴びるとこうなる体質は何とかならんものか。
お陰で日陰者を地で行く事になっている。
そこまで陰キャラではないと思うのだが、どう思う?
まぁ、直接浴びなければいい訳で。
さっと窓を開けて空気の入れ換えをしつつ、日影に待避。
溜まった埃がいい感じに舞い上がり、外へ飛んでいく。
溜まる前に掃除をすべきだったかもしれん。
まぁいいかと、寝室を後にしてキッチンへ。
氷の魔石でいい感じに冷やしている箱から、緑茶を取り出しグラスへ注ぐ。
茶葉が大分減ってきた。
また東方へ仕入れに行かねば。
とりあえず、グラスの緑茶をグイッと一気に流し込む。
うーむ。
「人間の血も、久々に飲みたいなぁ……」
緑茶も美味しいけど、人間の血はジュースのようなもの。
別に生きるために必要ではないけど、たまに欲しくなる。
でも襲うのは面倒臭い。
逆に恨みを買ってこのマイホームが傷つくのも嫌だし。
恨みを買わずに血を得る方法。
出来れば若くて可愛い女の子のがいい。
これは全世界、全種族の大多数の男の願いではなかろうか。
金を払えば誰かはくれないだろうか。
アルバイトみたいな感じで。
無いか。
……いやまて。
「王都のギルドとやらで、クエストとして発注できるのでは……!」
確か、以前そんな張り紙を見かけたはず。
そうそう王都なんて行かないからうろ覚えではあるけど。
だが、試してみる価値はあるに違いない。
思い立ったが吉日、急いで身支度をするために影の収納庫に手を突っ込む。
黒のズボンとTシャツでいいか。
白は光を反射するから日中は若干キツいものがあるし。
取り出して着替え終わったら戸締まり確認。
転移魔方陣を起動させ、王都の路地裏へと繋げる。
あそこなら、飛んですぐに日向ってことはあるまい。
熱いのは嫌なのです。
では、行ってきます。
キッチンの光景が一瞬グニャリと歪み、次の瞬間にはちょっと汚い路地裏に。
無事成功したようなので、早速ギルドへ。
大通りに出て、商店街から城門へ向かえばその近くにあったはず。
日向を歩くと大火傷するので、東方旅行時に買った番傘を日傘代わりに。
使うのは初めてだったけど、これは凄い。
日光が痛くない代わりに、視線が痛い。
商店街のおばちゃん連中は、日傘の存在を知らないようだ。
もしくは上下黒ずくめの俺がダメなのか?
人のファッションにケチつけんといて下さい。
そんな視線を掻い潜り。
辿り着きましたよ冒険者ギルド。
……血の提供って冒険者か?
まぁ、ある意味冒険か。
そんな事を考えつつ、扉を開いて中へ。
そこには多種多様な種族が、1人であったり、多人数であったりしながらそこらかしこに。
何故か皆して俺を見るけど、おいちゃん何もしてないぞ?
まぁいいかと、受付カウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。
本日はどのような御用ですか?」
エルフかな?
耳のとがった受付嬢が朗らかに聞いてくる。
うん、可愛いじゃないか。
実年齢知らんけど。
「えっと、依頼したいんですが」
「あ、冒険者の方では無かったんですね」
「はい。
初めてなのですが、ここの受付で良かったんですかね?」
「大丈夫です。
こちらの用紙に必要事項を記入していただきたいのですが。
どのような依頼内容でしょうか?
それと、受ける冒険者に支払う報酬は先払いになりますがよろしいですか?」
それは大丈夫。
お金は結構ある。
「依頼内容は、人間の若い女の子の血を飲ませて欲しい。
あ、人間じゃないとダメです。
そんな気分なんで。
報酬は1口なら金貨2枚。
満足するまでなら最大40枚。
致死量までは吸いません」
こんな感じでどうでしょう?
受付嬢に言ったところ、何か周りにいた冒険者に囲まれた。
なんでさ。
受付嬢も何か驚いてるしビビってる。
「に、人間の血液!?
まさか……あ、あなた……き、吸血鬼!?」
「いえーい」
「てめぇ……入ってきた時からおかしな雰囲気を持ってるとは思ってたんだ。
この王都に何しに来やがった!?」
ハゲの斧担いだにーちゃんが絡んできた。
「いや、血を吸いに」
「なっ……眷属を増やして王都を滅ぼすつもりか!」
「先に毛根を滅ぼしたやつが何を言う」
とりあえず、さっき記入してって渡されてた紙に必要事項を書いていく。
名前……ヴラドでいいか。
ありきたりだけど考えるの面倒。
職業は吸血鬼。
依頼内容と報酬はさっきの。
連絡先……うーん。
「まさか災厄級のモンスターが王都に侵入してるとはな!
お前ら、被害は絶対にここで止めるぞ!」
「「「おう!!」」」
通信用の水晶に連絡してもらえばすぐ行きますよっと。
こんなんでどうでしょう?
呆然としている受付嬢に依頼書を渡す。
「え?……あ、へ……?」
アへとな?
「てめぇ、何暢気に依頼書出してやがる!
このモンスターが、表に出やがれ!!」
「いーやーでーすー
表を見やがれ太陽出てるだろうが。
灰になっちゃうだろうが」
「あの、金貨40枚って平民なら年単位で生活できる額ですが……」
「血をくれって言ってるんだし安い方では?」
「はっ!
そんなんで最強の名前をよく名乗ってやがるな!」
「そんな自称最強みたいな痛いことしませーん
違う国ではチューニビョーって言うらしいぞそれ」
「はい、書類に不備はありませんね」
このにーちゃんと受付嬢の温度差は何だろう。
とりあえず書類は受理されたようなので、俺と他の冒険者とは依頼主と請負人の関係になったからな。
手を出してはギルドの信用問題になるから、騒ぎを起こすのは御法度とのこと。
みなさん、絶対手を出さないようにという受付嬢の言葉に、にーちゃんどころか他の冒険者まで黙ってしまった。
納得はしてないみたいだけど。
しかし、よく依頼書通したね。
「まずですけど、貴方相当強いですよね?
さっきから鑑定のスキルで見てますけど、とてもこのギルドメンバーが束になって敵う相手ではなさそうという事」
日光には負けますが何か。
「次に、ギルドが掲げている物の中に『種族問わず依頼を受け入れる』という物があること。
正式に書類を提出した貴方を、吸血鬼だからと断ったのではこれも信用問題にあたります。
話の通じないモンスターならまた別ですが。
最後に、書類に不備が無かったことです」
対話は大事。
初対面の人と話すのは苦手だけど。
「そう言う訳で、ヴラドさんの依頼は受理されました。
依頼を受ける人が出ましたらまた連絡しますので、お待ち下さい」
「あざーす」
あ、これ連絡用の水晶です。
使うとき魔力を少し流せば、俺の持ってる魔石板と繋がりますんで。
「え、それって遺失魔法なのでは……」
知らんよ。
そういや、最近そうやって連絡取らずに馬とか走らせてるのよく見たけど。
趣味なのかと。
まぁ、欲しいなら依頼終わったらあげるよ。
ほぼ使い捨てみたいな魔石に、通信回線繋げただけだし。
「た、直ちに探して参ります!!」
そう言ってカウンターから身を乗り出し、周りにいる冒険者を血走った目で見渡す。
男共は恐ろしさからか、そんな受付嬢から青ざめた様子で顔を逸らし。
条件に当てはまる人間の女性は、我先に外へと逃げ出していた。
死ぬまでは吸わんと言うのに。
何がそこまで恐怖を駆り立てるのか。
「さぁ、今こそ冒険の時です!
人間の方、こちらへどうぞ!
ちょっと我慢すれば金貨40枚ですよ!
さらに、ギルドへ多大な貢献をすることができます!!
さぁ、さぁ、さぁ!!」
これが恐怖を駆り立てるのか。
商業都市に流行っていた漫画で例えるのなら、俺の後頭部からは大きな汗が見えている事だろう。
聞こえているかは分からないけど、見つかったら教えてねーと、一応最高額の金貨40枚をカウンターに置いてひとまずギルドを後にする。
今日中に連絡来るだろうか。
まぁ、気長に待つとしよう。
とりあえずそれまでは、どんだけぶりかも知れぬ王都を散策してみようかね。
騒がしいギルドを背に、番傘を開いてはんなりと市内へ繰り出す俺だった。
初めましてだと思います。
紺色一本湿地です。
難しい名前ですが、ただのシメジです。
時間を持て余し、執筆してみた次第。
シメジも頑張ればタッチパネルを触れる模様。
生えている山から思いを馳せ、衝動と中二に彩られた胞子まみれの体でポチポチしているので先は見えません。
ただ、シメジ発信の電波を拾ってくれる方が少しでも居たら続ける所存です。
摘まないで下さい。
栄養を下さい。
メジャーよりもマイナーに、細々と生えていますので見かけたら手を振ってください。
気付いたら、胞子蒔きますんで。
それでは。