第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第4話、バードマン集落襲撃放火事件 その5
第4話その5
ヒカーツについて集落の入り口を出たドレイク達。そのまま歩き続け少し広場になっている場所に到着した。そこには槍を持ったバードマンが二人周囲を警戒しながら立っていた。一人は黒髪に黒い翼を持ったバードマン。もう一人は茶色の髪に灰色の翼を持っていた。
ドレイク達が近寄っていくと、その二人は気が付いたのかこちらに視線を向けてきた。
「お疲れ様ですヒカーツ隊長。定時連絡の時間ですか?」
「ああ、それもあるんだが……この人たちがお前の話を聞きたいらしくてな」
黒い翼のバードマンの言葉にそう答えたヒカーツはドレイクとフリルフレアを指示した。
「こんにちは、冒険者のフリルフレア・アーキシャです」
「ドレイク・ルフトだ」
そう挨拶したドレイク達を見たそのバードマン二人は驚いた様な表情になった。
「…え⁉あ、赤い羽根のバードマン⁉それに……赤い鱗のリザードマン⁉」
「は、初めて見るな……」
驚いているバードマン二人を見て、ドレイクとフリルフレアは改めて自分たちの外見が特異であることを思い出した。最近は顔なじみとばかり顔を合わせていたし、ホーモンやヒカーツはドレイク達を見ても驚いたそぶりを見せなかったので正直忘れていたのもある。
「驚いただろう?正直俺も驚いたんだがな」
顔を合わせた時にはそんな素振りは全く見せなかったが、どうやらヒカーツもドレイク達の外見には驚いていたらしい。意外と感情を表に出さないタイプなのかもしれない。そんなことを考えているとヒカーツがバードマン二人の肩を叩いた。
「紹介しよう。黒い翼の方がイーブス、灰色の翼の方がラースだ」
「ど、どうも。イーブスです」
「ラースって言います」
そう言って握手を求めてくるイーブスとラース。ドレイクとフリルフレアはその手を握り返した。
「よろしく頼む。イレブンとニャースだな」
「「は?」」
ドレイクの言葉に思わず眼が点になるイーブスとラース。それを見たフリルフレアは慌てたように手をバタバタと振って誤魔化した。
「す、すいません!うちのドレイクちょっと馬鹿なもので!」
「おいおい、俺は馬鹿じゃないぞ?」
フリルフレアの肩を掴みながらそう言うドレイク。だがフリルフレアはその手をスパァン!と引っ叩くと笑顔のまま額に怒りマークを浮かべてドレイクに向き直った。
「ちょっとドレイク!いい加減に名前を憶えてくれる⁉黒い翼の方がイーブスさん!灰色の翼の方がラースさんなの!イレブンじゃ11だし、ニャースじゃ額に小判付けた猫のモンスターじゃないの!」
「あれ?そうだっけ?」
相変わらずのボケをかましているドレイクとそれにツッコむフリルフレア。その後ろではベルフルフが腹を抱えて笑い転げていた。
「それでヒカーツ隊長。話を訊きたいと言うのは?」
「ああ、そうだったな。この二人がイーブスが怪鳥と遭遇した時の話を聞きたいというのでな」
「怪鳥と言うと、集落を襲ったあの怪鳥の事ですね?」
「ああ、そうだ」
頷くヒカーツ。それを聞いたイーブスはドレイク達に向き直った。
「分かりました。私の知りうる範囲の話で良ければさせていただきます」
「助かるぜ」
ドレイクがそう答え、「立ち話も何ですから腰を下ろしましょうか」とイーブスがいくつかある木の切り株に腰を下ろすよう勧めたその時だった。
「おい赤蜥蜴、なんか来たぞ」
「あん?」
ベルフルフの言葉に反応するドレイク。ベルフルフの耳がピクピク動いている事から何か聞こえることを察したドレイクは耳に意識を集中させる。すると確かに遠くから馬を走らせる音が聞こえてきた。
「何だ?」
「どうかしたのドレイク?」
「何か馬がこっちに向かって来てるみたいだ」
「馬?」
フリルフレアは周りをキョロキョロと見回すが、それらしいものは見当たらない。それもそのはずでドレイクとベルフルフは常人よりも優れた聴力を持っていたために遠くの馬の足音を聞き取っていたのだった。
「どうかしたのか?」
ヒカーツの問いに腕だけで答えたドレイクは背中の大剣に手をかけ慎重に辺りを観察する。まだ馬の影は見えないが足音は確実にこちらに近づいてきている。横ではベルフルフも腰の剣に手をかけて辺りを警戒していた。
そしてしばらく辺りを警戒していると、遠くから馬を走らせる影が近づいてくるのが分かった。
「何だ……ありゃ?」
思わず眼を細め駆けてくる馬を凝視するドレイク。馬の背に人が乗っているのが分かる。その人影は手に大きな槍を持ち、全身甲冑を纏っていた。そしてドレイクはその人影の姿にどこか既視感の様なものを感じていた。
(どこかで見た覚えがある様な……?)
ドレイクがそんなことを考えている間に馬はどんどん近づいてくる。そしてその馬に跨る全身甲冑の人影が手に持った槍を大きく振りかぶった。その瞬間ドレイクの野生の勘が警笛を鳴らす。そしてその直後人影の振り被った槍の先端に光が集まっていった。明らかに何か魔法攻撃を仕掛けようとしている。
「お前ら!避けろ!」
ベルフルフが叫びながらその場から飛び退く。ドレイクもフリルフレアを抱え込むと急いでその場から飛び退いた。次いで、ヒカーツもその場から離れていく。……しかしそこまでだった。
次の瞬間人影の槍の先端から光の奔流が撃ち出される。熱量を帯びた白い光の熱線はまっすぐ伸びていくとそのまま取り残されたイーブスとラースを呑み込みながら周囲の木々をなぎ倒していく。
「イーブス!ラース!」
ヒカーツの悲痛な叫びが響き渡る。そして光が消え去ると、そこには全身に火傷を負い焼け焦げたイーブスの姿と、それ以上の衝撃を受け右半身のほとんどを失い確認するまでもなくこと切れているラースの姿があった。
「な…何てことだ……イーブス…ラース…」
二人の元に駆け寄ったヒカーツはそう言うとラースの亡骸を抱えた。そしてドレイクに抱えられていたフリルフレアは急いでラースのもとに駆け寄る。その無残なラースの亡骸を見て泣きそうな表情になると、そのまま首を振ってイーブスの元に駆け寄った。急いで呼吸を確認するフリルフレア。ほんの僅かだが吐息を感じる。奇跡的にだがイーブスが生きているのを察したフリルフレアは急いで精神を集中させた。
「ドレイク!私はイーブスさんの治療に専念するから!そっちはお願い!」
「任された」
そう言ってドレイクは大剣を抜き放つ。そんなドレイクの後ろではフリルフレアの翼から暖かい炎が溢れ出していた。
「あ、あんた……一体何を⁉」
「私に任せてください!回復魔法の心得があります!」
そう言うとフリルフレアはイーブスに手をかざした。フリルフレアの深紅の翼からあふれた炎がイーブスを包み込む。
「ヒーリングフレイム」
優しい、温かな炎がイーブスの全身を包み癒していった。
そしてそんなフリルフレア達を庇うようにドレイクとベルフルフは剣を構えていた。その目の前には馬から降り槍を構えた者が立っている。そしてその者はドレイク達に歩み寄るとそのまま兜を脱ぎ去った。
「見つけた……ついに見つけたぞドレイク・ルフト!」
そう言ったその男にドレイクは見覚えがあった。だが、その男は……。
「お前は……」
「ウ、ウソ………チックチャック…さん…?」
ドレイクとフリルフレアの呟きはその男の高笑いによってかき消されていった。




