第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第4話、バードマン集落襲撃放火事件 その1
第4話、バードマン集落襲撃放火事件
第4話その1
ベルフルフを連れたドレイク達はバードマンの集落を訪れていた。名をホーモン集落と言い、それなりの数のバードマンが集まって生活をしていた。集落としては大きい部類らしく、中には様々な店の他集落を守る警備隊や祭事を司る祈祷師などもいるらしい。
ベルフルフの話では、集落の近辺を荒らしまわっている山賊がいたのと、謎の怪鳥に襲われたという事件があったため、それらの対処のためにベルフルフは雇われたと言う事だった。
「ま、とにかく何か情報が欲しいんだったら集落の長に訊くのが一番だな」
そう言ったベルフルフの案内で集落の長の家を目指す。しばらく馬車を歩かせるとすぐに長の家に辿り着いた。
そのまま馬車を下りたベルフルフは「おーい、戻ったぜ」などと言いながら家の中に入っていく。ドレイク達は互いに顔を見合わせたが、とりあえずベルフルフに続いていくことにする。馬車を下りると家の中に入っていった。
「おお、お帰りなさいベルフルフさん……おや?その方たちは?」
ベルフルフに続いて家の中に入っていくとそんな言葉と共にバードマンの老人の出迎えを受けた。そのバードマンは60~65歳くらいの年齢の男性で、頭は真っ白な白髪で口髭を生やし、歩行補助の為か杖をついている。体格は小柄で、背中からは茶色の大きな翼が生えていた。
「こいつらは……え~と……何て説明すりゃいいんだ?」
困ったと言いたげにドレイク達の方を向くベルフルフ。そんなベルフルフをつまらなそうに一瞥したドレイクは吐き捨てるように言い放った。
「別に何でもねえだろ。まったく見ず知らずの他人だ」
そんなドレイクの物言いにカチン!ときたのか、今度はベルフルフがドレイクを睨み付ける。
「あ?見ず知らずの他人とはご挨拶な野郎だな。別に知り合いだってくらいは言っても良いんじゃねえのか?」
ベルフルフはそう言ったが、その後ふと何か気が付いた様な表情になると少し考え込んだ。そしてそのままニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「あ、そうか。いつも俺に負けっぱなしで自分が雑魚だってことを周りの人間に知られたくないから知らない他人のふりをしてるんだな?」
そう言ったベルフルフは見下したようにドレイクを見ていた。だが、その言葉を聞いたドレイクも黙ってはいない。鋭い目つきでギロリとベルフルフを睨み付ける。
「あ?さっきから負けっぱなしとか何とか大ぼら吹きやがって。たまたま一回俺に勝った程度で調子に乗ってんじゃねえぞ。俺はお前みたいなクソ野郎と知り合いだと思われたくないから他人のふりをしただけだ」
「クソ野郎だと?てめえこそ調子に乗ってんじゃねえのか、この雑魚のクソ蜥蜴」
「調子に乗ってんのはお前の方だろうがこのクズ犬。そもそもなんなんだよ戦闘狂って?馬鹿なんじゃねえのか?」
「あん?バカはてめえだろうが。まともに人の名前も覚えらんねえ程脳みそが小せえくせによ」
「何だと?魔剣に頼らなきゃ何もできない駄犬風情が!」
「てめえだって魔剣使ってんじゃねえか馬鹿蜥蜴!何なら素手でやんのかコラ!」
「上等じゃねえかお前の貧弱な筋肉で俺の鱗を破れると思うなよ!」
「俺様の技を剣技だけだと思うんじゃねえそ!他にも切札はあるんだ!」
「何だとコラ!」
「ああん?やんのかてめえ!」
ついにはお互いの額同士をぶつけ合いガン飛ばしながら罵り合い始めるドレイクとベルフルフ。その様子は完全にどこぞのヤンキーの喧嘩である。だが、お互いに口汚く罵り合っていたのだが、すぐにネタが尽きたのか「ええっと……このバーカ、アホ犬!」だとか「うっせえ!このクソ蜥蜴……はさっき言ったから……無能蜥蜴!」などと低次元な言い争いになっていた。そして、そんな二人をアホを見る目で見つめるフリルフレア達。
(ドレイクはともかく………何でこんなアホな人を漏らしちゃうほど怖がってたんだろう私……)
フリルフレアは何やら一人自己嫌悪に陥っていたが、それでもすぐに気を取り直すとバードマンの老人の方を見た。そのバードマンの老人はフリルフレアとフェルフェルの方を交互に見比べており、「はて?」などと言いながら小首をかしげている。そしてそのままフリルフレアの方をじっと見つめてきた。老人の視線を受けてフリルフレアはニコリと微笑み返す。
そしてそんな中、ドレイクとベルフルフの喧嘩に呆れたのか、二人を無視してアレイスローが一歩前に出た。
「ええと、初めまして。我々はベルフルフさんの知り合いの冒険者でして……」
「知り合い…のう……」
バードマンの老人はそう言うといまだ「バーカ!」だの「アーホ!」だの「脳みそ空っぽ!」だの「戦闘しか能がない迷惑野郎」だの言い合っているドレイクとベルフルフに視線を向けた。そして何となく事情を察したのか「フォッフォッフォ」と笑いながら髭を撫でるとフリルフレア達の方に向き直った。
「そう言う事じゃったら自己紹介させてもらいますかのう。わしはこのホーモン集落を束ねる長を務めておる者ですじゃ。ホーモンとお呼び下され」
「ホーモンさん、ですか?」
フリルフレアの言葉に「ウム」と頷くホーモン。
「集落と同じ名じゃと言いたいのじゃろう?なぁに、単にこの集落では長になるとこの集落の名である『ホーモン』と言う名を受け継ぐことになっとるんですじゃ。わしにも元々別の名があったんじゃが、今はホーモンだという訳じゃ」
「そ、そうなんですか…」
(バードマンの集落にはそんな習慣があったんだ……)
自分の知らないバードマンの習慣に純粋に驚くフリルフレア。自分とフェルフェル以外のバードマンを知らないフリルフレアにとってはとても新鮮な驚きだった。そんなフリルフレアのことをホーモンが時折ちらちらと見ている。その様子は何やら少し驚いているようにも見えた。
(やっぱり赤い翼って珍しいのかな?ホーモンさんの翼も茶色だし)
何となくそんな気がした。実際今までも自分の翼は珍しがられていたのだし、やはりバードマンとしても珍しいのだろう。そんなことを考えながらふと後ろを見れば、ドレイクとベルフルフの口喧嘩は終わりを告げていた。お互いに「ケッ!」とか「クソが!」とか言いながらそっぽを向いている。
(何かドレイクとベルフルフさん……ちょっと似てるかも…)
何となくそう思うフリルフレアだったが、そのことは口には出さず胸中にとどめておいた。流石に口に出せば二人から何を言われるか分かったものではないからだ。とにかくフリルフレアがそんなことを考えているとベルフルフは「やってらんねえ」などと言いながら背中を向けた。そして「警備隊の連中に状況を確認して来る」などと言って家を出て行った。
それを見送ったドレイクは「よっしゃ‼馬鹿が居なくなったぜ!」などと言いながらガッツポーズを取っていたが、すぐに気を取り直してホーモンの方を向いた。
「そうだ、ところで爺さん」
「ちょっとドレイク!ホーモンさん、でしょ!」
いきなり爺さん呼ばわりして失礼だと感じたのかフリルフレアがドレイクを睨み付ける。そしてドレイクの脇腹を肘で小突いた。
「え?ああ、ええっと……ポケモンさん?」
「ミイィィ……。ドレイク、ボールでモンスターをゲットするつもりなの?いい?ホーモンさんなの、ホ・ー・モ・ン・さん!」
「え?そうだっけ?……えっとそれじゃぁ……デーモンさん」
「ドレイク!それじゃ閣下だから!デーモン閣下!『デ』じゃなくて『ホ』なの!ホーモンさんなの!」
「???……サーモン?」
「それじゃ鮭だよ!わざとやってるの⁉」
「そんなこと言ったって、憶えらんないものはしょうがないだろ」
開き直るドレイクに頭を抱えるフリルフレア。このお馬鹿赤鱗蜥蜴男に何とかして人の名前を覚えさせないといけないのだが、未だにうまくいったためしがなかった。
「……もうヤダ」
思わず弱音が出る。ドレイクの物覚えの悪さにまともに付き合っている自分が馬鹿みたいである。若干半ベソかきながらむくれるフリルフレア。そんなフリルフレアの頭をドレイクがワシャワシャと乱暴に撫で回す。
「おいおい、あんまり細かいことは気にするなよ?」
「誰のせいよ…」
若干の涙声でそう呟くフリルフレア。そしてそんなフリルフレアを見ては黙っていられない奴が一人。
「ちょっと赤蜥蜴!なにフリルちゃんを泣かしてるのよ!」
そう言うとドレイクからひったくる様にフリルフレアを奪うとそのまま抱きしめるスミーシャ。さりげなくフリルフレアの顔面がちょうど自分の大きな胸に埋もれる様に抱きしめる。そしてそのまま抱きしめる手にギュウギュウと力を込めていく。ちなみにフリルフレアは抱きしめられながら顔面を圧迫され「うぷ」とか「むぎゅ」とか言いながらジタバタ暴れているが、抱きしめるスミーシャの方がずっと力が強いため全く逃れられる気配がなかった。そしてそんなフリルフレアの頭を「フリル…かわいそう…赤蜥蜴…馬鹿野郎…」などと言いながらフェルフェルが撫で回していた。
そんなドレイク達を見て、話が全く進まないことに気が付いたアレイスローとローゼリット。二人は仕方なく前に出るとホーモンに対し軽く頭を下げた。
「私はアレイスロー・ストランティスと言います」
「私はローゼリット・ハイマン。他のアホ4人は……後で紹介する」
「これはこれはご丁寧に」
アレイスローとローゼリットの言葉に会釈を返すホーモン。
「して、ご用件はなんじゃろうか?……あ、生憎と用心棒の依頼を見て来て下さったんじゃったら申し訳ないが、すでにあのベルフルフさんを雇ってしまってのう…」
「ああ、いえ…そういった話では無いんです」
ホーモンの言葉にパタパタと手を振るアレイスロー。そしてその言葉を引き継ぐようにローゼリットが口を開いた。
「私達は実は別の仕事の最中なんだ。フェニックスの卵の探索と言う依頼なんだが……」
「ほう、フェニックスの卵ですか?」
ホーモンが驚いた様に口を挟む。バードマンは元々鳥系の生物とのつながりが強い種族である。何か思うところがあったのかもしれない。
「ああ。それで、冒険者ギルドからの情報でこの集落でフェニックスの目撃情報があったと聞いてな……それでこの集落を訪ねてきたんだ」
「なるほど、そう言うことじゃったのか」
ウンウンと頷くホーモン。しかし、すぐに腕を組むと小首を傾げる。
「しかし……はて?フェニックスの目撃情報と言うのは…わしは聞いておらんなぁ」
「え?そうなんですか?」
ホーモンの予想外の答えに戸惑うアレイスロー。
「ふむ……正直フェニックスなど伝説級の神獣じゃからな。文献でしか見た事が無いからのう。炎を纏う鳥と言う以外は全く分からんじゃろ?」
「まあ、そうですが……」
「そうじゃろう?それに、奴は違うと思うんじゃよなぁ。いくら全身に炎を纏った怪鳥じゃと言っても、神聖さのかけらも感じんからのう…」
「え?……奴?…怪鳥?」
ホーモンの言葉の中に引っかかるものを感じるアレイスロー。言葉の通りならばホーモンは全身に炎を纏う怪鳥を知っている事になる。全身に炎を纏う鳥となれば、それはフェニックスでは無いのか?アレイスローの直感がそう告げている。
「ホーモンさん。その怪鳥の話、もう少し詳しく教えてもらっていいですか?」
「それは一向に構わんが……それがフェニックスだとは思えんぞ?」
「構いません。今は少しでも情報が欲しい」
アレイスローの予想外の押しに強さに驚いたホーモンだったが、すぐにため息を吐くと「長くなるかもしれないから上がりなされ」と言ってドレイク達を中の居間に通した。




