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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第3話、牙狼剣ベルフルフ その3

     第3話その3


 ドレイクはその男、ドレイク自身がベルフルフ・サンドレイと呼んだ男に大剣を突きつけた。一方のベルフルフは所々身体の体毛が焦げたのか、体中を叩いてすすを払っている。

 睨み付けるドレイクに対し、何処か緊張感の欠ける雰囲気のベルフルフ。フリルフレアはあまりにも強大な殺気を受けてあふれ出していた涙を少し乱暴に拭うと、そんな二人に視線を向けた。

 正直、すでにベルフルフは殺気を収めていたのだが、それでもフリルフレアは体が震えるのを止められない。それでも何とか震えを無理矢理押さえ込んでベルフルフと言う男を見た。

 ベルフルフ・サンドレイは全身漆黒の毛並みを持つウルフマンであり、尻の辺りから黒くて長い尻尾が生えている。灰色の革鎧を身に纏い、その手には何か魔法がかかっている片手半剣を携えている。紫色の右目をしているが、左目には眼帯をしている。体格はドレイクよりも僅かに小柄と言った程度でウルフマンの平均からすればかなり大柄である事が分かる。

 フリルフレアはベルフルフを見ながら、この男がどうして襲い掛かって来たのかを考えていた。殺気を収めた今でも正直怖い。出来ることなら今すぐ回れ右して馬車の中に隠れてしまいたい。だが、そうも言っていられないだろう。何とかしてこの男を追い払わなければならない。

 だが、ドレイクが押されるほどの剣の使い手と言う時点で、こちらにほぼ勝機は無い。アレイスローはベルフルフの柄打ちを鳩尾に受け、未だ意識を失ったまま。ローゼリットやスミーシャ、フェルフェルの実力ではどう逆立ちしてもこのベルフルフと言う男には勝てない。そしてそれは自分も同じだった。ならば、この男が自分たちに襲い掛かって来た理由をハッキリさせ、それを解決し早々のお帰り願うしかなかった。

「あ、あなた……何が目的なんですか⁉何で私達に襲い掛かって来たんですか⁉」

「ん?」

 突然話しかけたフリルフレアにベルフルフは少し驚いた様子だった。そしてフリルフレアをまじまじと見ていたベルフルフだったが、そのままニヤリと笑みを浮かべる。

「おう、どうしたんだお漏らしした嬢ちゃん?おむつ替えてほしいのか?」

「な……お、おむ……」

 ベルフルフのあまりの言葉に、思わず口をパクパクさせて悔しがるフリルフレア。だが、ベルフルフのその言葉のおかげでフリルフレアは一時的に癇癪を起し、ベルフルフに対する恐怖を感じなくなっていた。

「だ、誰がおむつですか!漏らしたのだってあなたのせいじゃないですか!」

「え……何お前、本当に漏らしたの?」

「ドレイクは黙ってて!」

 ベルフルフに剣を向けたままこちらにジト目を送ってくるドレイクに「ムキーーー!」とわめきながら怒鳴り散らし、地団太を踏むフリルフレア。漏らしてしまった事と言い、あまりにもいろいろなことが悔しすぎた。

「くくく、おもしれえ嬢ちゃんだな。まあ、俺も鼻が良いからよ。実を言うとさっきから小便臭くてかなわねえんだ」

「なに人のおしっこの匂い嗅いでるんですか!この変態‼」

 明らかに小馬鹿にしてくるベルフルフの言葉に思わず我慢の限界が来たフリルフレア。反射的に叫びながら足元に転がった短剣を拾い上げるとそのまま投げつけていた。

 真直ぐ自分に向かって飛んでくる短剣を見て、ベルフルフは事も無げに剣で短剣を弾き飛ばしていた。カキーン!と小気味良い音を立てて短剣が弾き飛ばされる。

「おいおい、あぶねえじゃねえか」

 そう言いつつもどこか小馬鹿にしたようなベルフルフ。自分の実力も考えずに向かってくるフリルフレアに対し、小馬鹿にしたような視線を送っている。そしてその瞬間、ベルフルフの意識は完全にフリルフレアに向いていた。その一瞬後には再び周囲に意識を向けたベルフルフだったが、その一瞬が命取りとなる。そう……一瞬あればドレイクには十分だった。その瞬間ドレイクの大剣が唸りを上げる。

「チィェスト―――!」

ガキイィィィン!

 ドレイクの大剣がベルフルフの剣を弾き飛ばした。ベルフルフの意識がそれた一瞬を狙った早業だった。

「何⁉」

 思わず驚きの声を上げるベルフルフ。そして弾き飛ばされたベルフルフの剣は宙に舞いそのまま回転しながら地面に突き刺さった。

「形勢逆転だな、ベルフルフ」

 剣を弾き飛ばし、返す刃で大剣をベルフルフに突きつけたドレイク。大剣を突きつけられたベルフルフは「チッ!」と舌打ちすると、降参だとばかりに両手を上げた。

「しょうがねえなぁ……。ほれ、降参だ降参」

 少し投げやりな感じでそう言うベルフルフ。しかし、そんなベルフルフを睨み付けたままドレイクは動こうとしなかった。油断なく大剣をベルフルフの喉元に突きつけ続けている。

「おい赤蜥蜴、降参だって言って……」

「それで俺が気を抜いた瞬間に、剣を蹴り飛ばして今度は格闘戦に持ち込もうって言うのか?」

「チッ……………」

 ドレイクの言葉に舌打ちするベルフルフ。どうやら図星だった様である。

「生憎だったなベルフルフ。俺もお前のやり方に少しは慣れて来たんだよ」

「余計なことに慣れやがって……」

 憎々しげにそう言うベルフルフ。そんなやり取りをするドレイクとベルフルフを見たスミーシャっは驚愕の声を上げていた。

「あ、あの赤蜥蜴が……人の名前を覚えてる⁉」


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